再成【さいせい】は、情報体(エイドス)を再構成する能力[Ⓝ劣-8-194]。エイドス復元魔法[Ⓝ劣-25-31]。
全ての物質と情報体を、24時間以内に限り復元する力。死なない限り蘇る、蘇らせる力[Ⓝ劣-16-198]。
自他を問わず、生物・無生物を問わず、あらゆる損傷を無かったことにする。怪我を治すのではなく、怪我を負う前の状態を復元し、そこから怪我を負わずに時間が経過した状態を実現する[Ⓝ劣-30-204]。
最大24時間まで時間流を遡行する限定的時間遡行魔法(正確には時間経過改変の魔法)であり[Ⓝ劣-28-146,30-204,32-137]、四系統八種では分類できない、時間に干渉する魔法で[Ⓕ来-ADW-094]、最高難度の魔法の一つである[Ⓝ劣-2-259]。
作中では、「奇跡」「神の如き魔法」「人のなし得ることではなく、神の御業」「奇跡に等しい治癒の技」「奇跡としか言いようのない再生魔法」「魔法と言うにはあまりに強大で、あまりに精緻で、大胆で、繊細」「これこそが真に『魔法』の名に値するもの」などと評されている[Ⓝ劣-7-278,8-172,11-364,17-39,Ⓝ㊕-続追-26]。
なお、技術化された魔法であるため、BS魔法の定義は満たさない[Ⓝ㊕-続追-22]。
現象
肉体に対して行使したときに起こった現象
発動の際には、深雪いわく「信じられないくらい大量のサイオンが術者の体内で活性化する」[Ⓝ劣-8-174]。
発動の瞬間は、ボウッと対象の肉体が霞んだように見え、次の瞬間には傷の無い状態に戻っている。衣服に付着していた血の跡も消える[Ⓝ劣-7-257,8-176]。
怪我の原因となった弾丸等は「肉体に食い込まなかった」ことになり、周囲に散乱していた弾丸の破片等は消え、破片となる前の元の状態で周囲に散乱する[Ⓝ劣-7-257]。
あるいは、二つにちぎれてしまった肉体を元に戻すときは、分離していた2体が元の位置に引き寄せられて接触し、肉体全体がボウッと霞み、次の瞬間には2体が元の状態に戻っている[Ⓝ劣-7-258]。
また黒羽貢に行使した際には、行方知れずになっていた右腕が何処からともなく現れ、傷が合わさってつながる、という現象が起こっている[Ⓝ劣-13-348・349]。
魔法の暴走に対して行使したときに起こった現象
魔法の暴走による室温低下に対して行使した際には、室温がいきなり元に戻り、窓に張り付いていた霜は跡形もなく消え、結露も残らなかった[Ⓝ劣-23-60]。
このとき、ほのか達は「磁気テープを巻き取るような幻音」を聴いた。詩奈は「巻き戻った」と表現している[Ⓝ劣-23-60]。
これは、室内の「温度」という事象に付随する情報(エイドス)を、一切のプロセスを無視して魔法発動前に戻した結果、「冷却現象が巻き戻った」という形で「世界」が辻褄を合わせたことによるもので、聴こえた幻音は、情報の次元で生じた因果の逆転が、正常な因果の流れとぶつかり合って発生した想子波のノイズである[Ⓝ劣-23-60]。
原理
エイドスの変更履歴を最大で24時間遡り、任意の時点のエイドスを復元・複写(フルコピー)し、それを魔法式として現在のエイドスに貼り付け、現在のエイドスを過去のエイドスで上書きする[Ⓝ劣-7-256・277,Ⓝ㊕-続追-25]。すると、魔法の基本原理に従い、上書きされた対象は、損傷を受ける前の状態、怪我をしなかった状態に復元される[Ⓝ劣-7-256・257・277]。
これは、「過去に外的影響を受けて確定した現在」を、「過去の一時点から外的な影響を受けずに時間が経過した現在」で置き換えるということであり、全てが無かったことになる[Ⓝ劣-7-277,32-137]。
その際、時間経過による内在的変化が調整される[Ⓝ劣-25-33・35]。
また、世界の持つ修正力が、改変内容に辻褄を合わせるべく作用する[Ⓝ劣-7-257]。
フロー
- エイドスの変更履歴を遡及する[Ⓝ劣-7-256]。
- 復元時点を確認する[Ⓝ劣-7-256]。
- 所定の時点のエイドスを復元し、魔法演算領域に複写する[Ⓝ劣-7-256,8-176]。
- 複写したエイドス(情報体)を変数として、『再成』の魔法式を組み立てる[Ⓝ劣-8-176,32-214・218・220]。
- 魔法式を対象のエイドスに貼り付ける[Ⓝ劣-7-256]。
- 現在のエイドスを上書きする(魔法の実行)[Ⓝ劣-7-256]。
- 情報の書き換えに伴い、その事象に限定して世界が上書き更改され、現在に定着する。その際、時間経過による内在的変化が調整される[Ⓝ劣-7-256・257,25-31・33]。
- 「世界」の修復力が作用する[Ⓝ劣-7-257]。
情報の認識
『再成』を使いこなすためには、想子情報体に記述された内容を理解する必要がある[Ⓝ㊕-続追-27]。
エイドスや魔法式を一塊の情報体として捉えるだけではなく、そこに含まれている情報を認識できなければ、使うことはできない[Ⓝ㊕-続追-27]。
変数のストック
発動には対象物の構造や素材の組成情報など、対象物の全情報が必要で[Ⓝ劣-30-287,32-218]、これらの情報は『再成』の魔法式における変数として用いられ[Ⓝ劣-32-214・220]、発動するまでは術者の中にストックされる[Ⓝ劣-32-218・220]。
『再成』によって復元された事象が永続する理由
エイドスには修復力があって、(魔法によって)書き換えられた「偽りのエイドス」は、時間経過と共に本来のエイドスに書き直されていく[Ⓝ劣-25-31・33]。通常の魔法ではこの修復力(復元力)が作用するために、魔法による改変は永続しない[Ⓝ劣-7-277,25-31・33]。
エイドスの復元力とは、外から書き換えられる前の過去の自分に戻ろうとする力である[Ⓝ劣-7-277]。
しかし、『再成』でフルコピーされたエイドスもまた、過去の自分自身を表す情報体(確かにその事象そのものを記述した情報体)である[Ⓝ劣-7-277,25-33]。
この「過去の自分」で上書きされた対象は、情報に矛盾が無ければエイドスの修復は行われない[Ⓝ劣-7-277,25-33]。
そして、損傷を受けることなく時間が経過した状態(コピーした時点から外的要因による変更を受けず時間だけが経過した状態)で、この世界に定着する[Ⓝ劣-7-277,Ⓝ㊕-続追-25]。
言い換えると、その事象が固有に持つ時間を遡り、過去の一時点からその事象に限定して世界が上書き更改される[Ⓝ劣-25-33]。
達也の『再成』は、通常の魔法のように因果の「果」を変更するのではなく、「因」を変更することにより「果」を変える、固有時間遡行魔法、世界限定更改の魔法である[Ⓝ劣-25-33]。
デメリット
エイドスの変更履歴を遡ってフルコピーするためには、エイドスに記録された情報を全て読み取っていく必要があり、その情報には「負傷者が味わった苦痛」も含まれる[Ⓝ劣-7-280]。読み取りに際しては、知識として苦痛を読み出すのではなく、「苦痛」という感覚が、負傷した肉体の神経が生み出す痛みという信号が、ダイレクトな情報となって術者の中に流れ込んでくる[Ⓝ劣-7-280]。
それも、脳を介した情報ではなく、精神が直接、それを認識する[Ⓝ劣-7-280]。
しかもそれが、一瞬に凝縮されてやってくる。例えば、負傷してから『再成』行使までに30秒が経過しており、エイドス変更履歴の読み出しに0.2秒を要した場合、術者が感じる苦痛は30秒÷0.2秒=150倍となる[Ⓝ劣-7-280]。
1時間前の負傷を治すならば、1万倍以上の苦痛に耐える必要がある[Ⓝ劣-7-281]。
このように、情報を遡及する過程で、術者は対象が取得した情報を一瞬に凝縮して認識してしまう[Ⓝ劣-29-258]。
ゆえに、傷を治す場合は、傷を負ってから蓄積された痛みを一瞬に凝縮して、何十倍、何百倍もの激しさで追体験してしまう[Ⓝ劣-29-258]。
死者の蘇生は不可能
『再成』は、死んでいない限りは如何なる致命傷であろうと一瞬で無かったことにしてしまう異能である[Ⓝ劣-24-46]。
心臓が止まっていても脳死に至っていても、あるいは首が千切れていても、その直後であるならば蘇生できる[Ⓝ劣-8-231]。
即死の致命傷であっても、肉体を再建し血液を循環させることで蘇生する可能性が完全にゼロでない限り、死者を生に呼び戻すことができる[Ⓝ劣-8-231]。
だが、死者を蘇らせることはできない[Ⓝ劣-8-231,19-158・227]。
物質の時間を巻き戻すことはできても、命の時計を逆回転させることはできない[Ⓝ劣-8-255]。
死が定着してしまった後では、どうすることもできない[Ⓝ劣-8-232,19-125]。
生と死の間には明確な境界線がある[Ⓝ劣-19-125]。
生死は不可逆に連続しているものであり、「死」は「生」の内在的変化、不可逆変化である[Ⓝ劣-8-231,19-158]。
死体に『再成』を掛けても傷の無い死体が出来上がるだけで、死者が生き返ったりはしない[Ⓝ劣-8-231]。
司波達也の『再成』
『再成』は、『分解』とともに達也が先天的に有している、達也が自由に使える2つだけの魔法のひとつであり、達也の魔法演算領域の半分を占有している魔法である[Ⓝ劣-2-259]。
『精霊の眼』で情報体を認識できるが故に、実践(実戦)で実行できる魔法である[Ⓝ劣–]。
達也の魔法演算領域は、完全に『分解』と『再成』の魔法式を構築するためだけのシステムとなっており[Ⓝ㊕-続追-22]、そこに追加データを入力するだけで、極めて複雑な魔法を発動することができる[Ⓝ劣-25-260・261]。
戦闘中の『再成』使用について
隙を晒さないためには痛みに耐える必要がある
『再成』に伴う痛みは精神の集中を妨げ、魔法発動の阻害要因になる[Ⓝ劣-13-321]。
フルバックアップを使った『再成』(自己修復術式)ならば痛みを覚えることはないが、その場合は魔法演算領域の全てが『再成』により一時的に占有され、一瞬以上の攻撃遅滞が生じてしまう[Ⓝ劣-13-321]。
達也は致命傷を受けてもサイオンが尽きない限り死ぬことはないが、致命傷を受ければ生存本能が自動的にフルバックアップの使用を始め、他の魔法技能を停止してしまう[Ⓝ劣-13-321]。
短時間での過剰連続行使は敗北につながる
『再成』は、物理的な攻撃に対するある意味で無制限の再生能力だが、「無制限」とは損傷の程度についての話であり、回数についての話ではない[Ⓝ劣-11-31]。
短時間に何百回も『再成』を使わせられ続けると、いずれ魔法演算領域が連続発動に耐えられなくなり、オーバーヒートを起こしてしまうか、『再成』の発動に失敗してしまう可能性が高い。これは、達也の不死身性を突き崩す数少ない攻略法の一つである[Ⓝ劣-30-267]。
『誓約』の解呪
『誓約』によって、達也は長らく魔法力を制限されていた。
しかし、2097年5月の解呪(完全解除)によって真の力を取り戻し、『再成』の対応領域も広がった。具体的には、幽体の構造情報をも遡及し、複写できるようになった[Ⓝ劣-25-34]。
司波達也の『自己修復術式』
『自己修復術式』は、自分自身に対して行使する再成魔法。
戦闘力低下の程度が許容レベルを突破した場合や、戦闘を阻害する要因が発生した場合などに、自動的もしくは半自動的にスタートする[Ⓝ劣-1-218・219,4-314・315,6-279,9-270]。
致命傷を受けた場合には、生存本能が自動的にフルバックアップの使用を始め、痛みを覚えることもなく、瞬時に自己修復が実行される[Ⓝ劣-13-321]。
ただし、魔法演算領域の全てが『再成』により一時的に占有されることになる[Ⓝ劣-13-321]。
発動速度
自己修復術式は、達也の意識より速く走り、達也が意識するより早く完了する。これは、無意識領域の情報処理速度が意識領域の情報処理速度を大きく凌駕するためである[Ⓝ劣-4-315]。
その発動速度は、山中いわく「人間の認識速度を超えている」[Ⓝ劣-4-319]。
2095年度九校戦のモノリス・コード新人戦決勝で発動した際には、響子も山中も気づかないうちに発動が終わっており、術式発動の想子波動も捉えられなかった[Ⓝ劣-4-319]。
オートスタート
- 負傷によって戦闘力の低下度合が許容レベルを突破する[Ⓝ劣-4-314]。
- 自己修復術式がオートスタートする[Ⓝ劣-1-218]。
- コア・エイドス・データをバックアップから読み込む[Ⓝ劣-1-218]。
- 魔法式をロードする[Ⓝ劣-1-218]。
- 自己修復を開始し、完了する[Ⓝ劣-1-218,4ー315]。
セミオートスタート
過程は同上[Ⓝ劣-6-279・280]。
強制停止・再開
自動的に作動しようとした自己修復を意志の力で止め、後から実行することもできる[Ⓝ劣-4-335・336,9-270,19-163・165]。
その他
- 第一〇一旅団と四葉家の契約において、『再成』は『分解』以上の秘匿事項と定められている[Ⓝ劣-30-246]。
- 「怪我をしなかった状態」を作り出すだけでなく、24時間以内であれば任意の時点からスタートした「現在の姿」を実現する。
怪我をする途中の状態を取り出して、本来負っていたはずの怪我より軽傷の状態を創り出すという芸当もできる[Ⓝ劣-30-204]。 - 深夜は、『再成』について「厳密に言えば『魔法』ではない」と述べている[Ⓝ劣-8-196・241]。
- 術式も想子情報体なので、術式の複写と上書きに使うこともできる[Ⓝ劣-13-305・306]。
- 『バリオン・ランス』には、中性子を回収する工程とランス・ヘッドを再生する工程に『再成』が使われている[Ⓝ劣-14-28,16-280・282・283,23-253]。
- 『オブジェクトの分解』でバラバラにした機械や、『雲散霧消』で元素レベルに分解した物体などを、『再成』で元に戻すこともできる[Ⓝ劣-8-245,18-238,32-288]。
- 衣服に付いた汚れを、「元に戻す」ことにも使える[Ⓝ劣-24-106]。
- 達也は、FLTで研究試料の復元のために行使する[Ⓝ劣-1-76]など、人間以外に行使したことはあったが、沖縄海戦で深雪を助けるまで、他人に『再成』を行使したことはなかった[Ⓝ劣-8-231]。
- 達也は『自己修復術式』を、小学生の時には使いこなしていた[Ⓝ劣-13-190]。