個別情報体〈エイドス〉

個別情報体〈エイドス〉は、現代魔法学において「事象に付随する情報体」を表す言葉[Ⓝ劣-1-11・105]
想子で構築された情報体想子情報体[Ⓝ劣-1-11,5-8]

「事象」の付随情報にして、「存在」と表裏一体の情報体[Ⓝ劣-2-190]

「世界」にその「事象」が存在することの記録であり、「事象」が「世界」に記す足跡とも言える[Ⓝ劣-1-11]

名称は、ギリシア哲学の用語に由来する[Ⓝ劣-1-11・105]

エイドスとイデア

エイドスが記録されるプラットフォームは「イデア」と呼ばれている[Ⓝ劣-1-11]

エイドスとは、世界情報イデアの中において、ある事象・実体を他の事象・実体から区別する情報ユニットである[Ⓝ劣-6-76]

この世界に実体を持って存在する限り、イデアにエイドスを刻まないものは無い[Ⓝ劣-4-249]

個々のエイドスは森羅万象の情報であり、イデアはそのプラットフォームである。四葉家では、「イデアの中でエイドス同士を結び付けている情報ネットワークが存在していて、その解明は魔法の本質を理解するための重要な鍵となるはずだ」と考えられており、研究が進められている(『情報ネットワークの本質解明』[Ⓝ劣-30-119,Ⓝメ-1-85]

エイドスがイデアに内包されることは分かっている(定義されている)が、イデアやエイドスそのものが真に何処にあるのかは分かっていない[Ⓝ劣-10-80]
とは言え、この世界から独立した異世界があるわけではなく、この世界とは表裏一体の関係にあるとする仮説が主流となっている[Ⓝ劣-28-72]

エイドスの性質

エイドスと「世界」

「世界」には、本来在るべき姿を取り戻そうとする修復力がある。魔法は効力を発揮している間ずっと、「世界」の修復力に抗って、一瞬一瞬、事象を改変し続ける[Ⓝ劣-28-148]

魔法の効果が永続しないのは、エイドスの復元力が作用するためである。エイドスの復元力とは、外から書き換えられる前の過去の自分に戻ろうとする力である[Ⓝ劣-7-277]

エイドスへのアクセス

魔法的にいえば、名前と顔の両方が揃えば、実体への道標となる。それだけで魔法による攻撃が可能になるわけではないが、本人のエイドスにアクセスしやすくなるのは確かである[Ⓝ㊕IF-72]

エイドスにアクセスするためには、ある程度の関連性が必要となる。術者との関連性が低いほど、情報的な距離は遠くなる。情報的な距離が近ければ、物理的な距離に依らずアクセスすることもできる[Ⓝ劣–,28-53,Ⓝ㊕星呼-187]

エイドスと「情報」の定義

物質の特性は、そのまま情報に反映される。たとえば中性子のエイドスには、「貫通力が高い」という情報が刻まれる。情報的に「貫通力が高い」中性子線を魔法で遮断することは難しい。なぜならば、「遮断が難しい」と定義されているからである[Ⓝ劣-23-257]

あるいは衛星の場合は、「衛星は推力無しには母星以外の天体重力が作用しない限り同一軌道を周回するものである」という情報の定義力が強すぎるため、飛行術式による高度変化を伴う軌道変更は、誤差の範囲と認識される・・・・・程度でしか行うことができていない[Ⓝメ-1-98]

独立情報体

独立情報体は、「存在」から離れイデアを漂っている「独立した非物質存在となった情報体[Ⓝ劣-3-292]
実体から遊離した情報体[Ⓝ劣-4-226]。自律性の非物質存在[Ⓝ劣-4-354]
「事象に付随しなくなった情報体」を指すものと思われる[管推]
九重八雲は、「この世のものならざるモノ」「肉を持つ生き物ならざるモノ」と表現している[Ⓝ劣-9-190・191]

個々の事象から離れて抽象的な「概念」の塊となった精霊[Ⓝ劣-3-293]や、パラサイトなどの魔性[Ⓝ劣-9-190]人造精霊[Ⓝ劣–]などは、独立情報体に分類される。

精霊は、自然現象に伴ってイデアに記述された情報体が実体から遊離して生まれた孤立情報体とされる[Ⓝ劣-9-192]

物理現象に由来する精霊に対し、パラサイトは精神現象(人間の精神活動)に由来する情報生命体ではないか、と八雲は考えている[Ⓝ劣-9-192,10-79]

式神は、自然発生した霊子情報体の核を持つ想子孤立情報体を捉えて使役したもの[Ⓝ劣-14-94]

人造精霊(式神の一種)は、精霊の発生プロセスを人為的に引き起こして作り出した孤立情報体。想子のみで構成されている[Ⓝ劣-14-95]

エイドスと「存在」

存在情報の流用は、自分自身の抹消に繋がるものである。意志ある生き物が自力で可能な業ではない[Ⓝ劣-19-151]

ただし、生者を殺害して死者とし、余剰の精気生命エネルギー)を死体にプールし、これを魔法力として使用すれば、「死者でありながら生命があり」「生命を失いながら完全な死者へと変化する」死体が出来上がる。この死者(仮)が魔法力=生命エネルギーを消費していくと、存在情報も希薄化していく、と説明できる[Ⓝ劣-19-154]

存在を記録した情報体に、『術式解体』へ転用できるほどの想子量はない[Ⓝ劣-19-151]

エイドスに含まれる「情報」

「エイドスの一部又は全部」「属性の一部」という表現[Ⓝ劣-4-107]から、エイドスに含まれる情報には、種々の属性がラベリングされている可能性がある[管推]

エイドスに含まれている情報には、温度の情報[Ⓝ劣-23-60]、位置情報[Ⓝ劣-4-107]、苦痛などの感情[Ⓝ劣-7-280]、色彩や輪郭といった外見情報[Ⓝ劣-9-222・232・261]、物体の材質・質量・構造などの情報[Ⓝ劣-9-222]、物体が発しているの情報[Ⓝ劣-9-261]、その人物が所属している組織の情報[Ⓝ劣-15-248]、肉体年齢の情報[Ⓝ劣-18-228]、存在情報[Ⓝ劣-19-151]、などがある。

事象には情報が伴い、この情報は想子に刻まれる。これは想子自身が引き起こす現象にも当てはまり、何かが変化すれば、そこには必ず「変化した」という情報が痕跡として残る。これは魔法という「情報を操作する技術」であっても同じで、痕跡情報を打ち消す情報操作もまた、情報を痕跡として残す。したがって魔法による事象改変の情報とは別に、魔法でエイドスを書き換えたという情報が残る。「改変した」という情報には主体と客体が含まれ、「何が」「何を」改変したのか、という情報が刻まれる[Ⓝ劣-19-57,28-147∼149]

スターダスト[Ⓝ劣-10-296・297]ジェネレーター[Ⓝ劣-18-228]意思を奪われ行動を制御するコマンドを埋め込まれた魔法師[Ⓝ劣-22-140]新ソ連「アンドレエヴナ」[Ⓝ劣-24-289]などのエイドスは、歪なものになっている。

肉体のエイドス

肉体情報を記録したエイドスには、様々な名称がある[Ⓝ劣-15-219]

想子体

想子体は、肉体と重なって存在している想子情報体。その人間が保有する想子の容器[Ⓝ劣-15-219・223]
無数に分岐した細いパイプを束ね、折り曲げて、肉体と同じ情報の形を作っている[Ⓝ劣-15-223]

肉体と連動しており、意思で想子体をコントロールすることで、神経伝達速度を超えて肉体を動かしたり、内臓と連動している情報部分をコントロールすることで、内臓機能の修正や強化もできる[Ⓝ劣-15-219]

古くから「幽体」と呼ばれていたものの正体ではないかという説もあるが、この点については議論が分かれている[Ⓝ劣-15-219,28-56]

幽体

幽体は、肉体情報体で、精神体への通路[Ⓝ劣-11-79・80]精神に直結する想子情報体[Ⓝ劣-25-34]。肉体の情報を保持した精神体[Ⓝ劣-28-52]

精気(生命力)の塊で、精神と肉体をつなぐ霊質で作られた、肉体と同じ形状の情報体[Ⓝ劣-9-170]
そのコアは霊子情報体だが、それと重ね合わせるように想子情報体の衣を纏っている[Ⓝ劣-28-57]。この想子情報体は、肉体の情報を保持している部分である[Ⓝ劣-28-63]

これに関連して、司波達也は精気を「生命エネルギー」と表現している[Ⓝ劣-19-153]

「陰」

「陰」は、肉体に重なる想子情報体。肉体のエイドスではなく、物質体次元において肉体に重なって自然に形成される残像のようなものであり、エイドスのように実体と強くリンクしているわけではない。しかし、武術の上級者はこの「残像」を先に動かすことで肉体をコントロールすることがある。あるいは、肉体に先行する「残像」の動きを見て、相手の動きを先読みしたりする。『切陰』はこの術理を逆手にとって、「陰」を切ることで肉体のコントロールを失わせる技術である[Ⓝ劣-23-286,Ⓝ㊕星呼-184]

アストラル体

アストラル体(星気体、魄)は、肉体に関わるエイドスを指す表現の一つ[Ⓝ劣-25-35・117]。肉体の想子情報体[Ⓝ劣-28-280,Ⓝメ-2-141]

『影獣』[Ⓝ劣-26-168]雷獣[Ⓝ劣–]『幻衝』[Ⓝ劣–]『切陰』[Ⓝ㊕星呼-184]『突陰』[Ⓝ劣-28-280]などは、アストラル体に作用する魔法である。

肉体に重なる想子場

高密度の想子塊である『封玉』は、非物質粒子である想子から成るものであるにも関わらず、手で掴むとまるで固体のような手ごたえを返す。これは、『封玉』が肉体に重なる想子場を押し返しているためである[Ⓝ劣-27-76]

さまざまな「チャネル」

ゲート

ゲートは、精神肉体と交信する際のチャネルを改造したもの。肉体を持つ魔法師の精神が魔法式を放つ出口だが、幽体の状態では使用されない[Ⓝ劣-28-72・73]

精神が物理次元にアクセスするためのチャネル

精神は、物質体次元に直接のアクセスはできない。アクセスするためには想子構造体を構築する必要があり、その中に設けた通路(精神が物理次元にアクセスするためのチャネル)を使う必要がある、と司波達也は考えている[Ⓝ劣-28-72]

精神が情報次元にアクセスするためのチャネル

精神は、情報体次元に直接のアクセスはできない。アクセスするためには想子構造体を構築する必要があり、その中に設けた通路(精神が情報次元にアクセスするためのチャネル)を使う必要がある、と司波達也は考えている[Ⓝ劣-28-72]

精神が肉体と交信するためのチャネル

精神肉体想子波で交信しており、それを受発信するためのチャネルが存在する[Ⓝ劣-28-71・73]

精神体で魔法式を出力する際に使われるチャネル

このチャネルは使い捨てらしい[Ⓝ劣-28-73]

『幽体離脱』の術式を維持するためのチャネル

このチャネルは、肉体から幽体に向けて絶えず事象干渉力を送っている[Ⓝ劣-28-74]

エイドスと魔法

想子は物質や現象に重なるようにして、その性質を忠実に記述する組織体(想子情報体)を形成する。魔法師はこの情報体=エイドスをターゲットにして魔法を使う[Ⓝ暗-2-73]

現代魔法

現代魔法は、エイドスに干渉する技術である[Ⓝ劣-2-190]現代魔法師は、イデアを経由してエイドスに魔法式を投射する[Ⓝ劣-4-249,管補]

エイドスは事象の変化に従って書き換わる。このプロセスを逆転させ、魔法式でエイドスを上書きすることにより事象の方を変化させる技術が、四系統八種の現代魔法である[Ⓝ暗-2-73]

エイドスは現代魔法の理論的基盤となっていて、現代魔法学においては、魔法とはエイドスを改変することによって、その本体である「事象」を改変する技術であると定義されている[Ⓝ劣-1-11]

エイドスの認識

現代魔法師は、イデアの中に個々のエイドスを認識している。しかしそれを意識して・・・・見分けることができる者は少ない[Ⓝ劣-2-191]

魔法師は、事象の記録であるエイドスを読み取ることで、本体である事象そのものを認識する。これは、『精霊の眼』を持たなくても、魔法を行使する際は程度の差はあれ、全ての魔法師が行っていることである[Ⓝ劣-30-96]

魔法師ならば誰もがエイドスを視る視力を有しているが、その程度は個人によって異なる。司波達也は詳細な情報を捉えることができるが、普通は「個々の区別」くらいしかできないらしい[Ⓝ㊕星呼-206,管推]

魔法的な座標(照準)

魔法の座標とは、対象とするエイドスのイデア内における相対座標のことである[Ⓝ劣-3-354]

エイドスに魔法式を投射する際、多くの場合は視覚情報をメインキーとして対象エイドスの魔法的な座標を捕捉する。ここに、聴覚情報や感熱触覚情報がサブキーとして組み合わせられたりする[Ⓝ劣-9-267・268]
幻影によって視覚情報を狂わせれば、そのままでは魔法は発動しなくなるが、本体と幻影が重なっている場合は、座標の情報から本体のエイドスにたどり着くことができる場合がほとんどである。発動に遅延は生じるが、魔法はちゃんと作用する。幻影が本体と別の場所に投射されていても、幻影と本体の関連付けをキーとして本体のエイドスを探し出すこともできる[Ⓝ劣-9-268]
しかし、座標が偽装され、なおかつイデアに本体のダミーが用意されている場合は、五感の情報をキーとして放たれた魔法式はダミーの方に作用してしまう(『仮装行列』[Ⓝ劣-9-268]

起動式の読み込み

CADから出力された起動式は、肉体に重なる想子情報体に吸収され、魔法演算領域に送り込まれる[Ⓝ㊕続追-36]

魔法式の投射

魔法の一時的形態は、イデア魔法式を出力し、エイドスを書き換える技術である[Ⓝ劣-1-11]
魔法式は、エイドスを改竄するコンピュータウイルスのようなものと言える[Ⓝ劣-5-8]

魔法式のエイドスへの干渉

対象のエイドスに投射された魔法式は、対象の情報を一時的に書き換える。情報が書き換われば事象も書き換わる(想子情報体に記述された事象の在り方が、現実世界の事象を一時的に改変する)[Ⓝ劣-1-105]

例えば、表面が赤い球体には「主に赤い光を反射する」「形状が球体」という情報が付随する。この情報を「主に青い光を反射する」という内容の魔法式で上書きすれば、球体の表面が青く変色する。エイドスを魔法式で上書きすることにより、魔法式に記述されている情報が一時的にその事象を表現する属性となる。その効果は魔法式が消え去り本来その事象に付随していた情報が顕在化するまで続く[Ⓝ劣-6-85]

こうした魔法式は、その魔法が作用している事象の表面・・に書き込まれる。エイドスの最外層、「世界」と接している面を魔法式が覆う。「世界」は、エイドスの最外層に貼り付けられた魔法式の情報から、当該事象は「そういうものである」と誤解する。「世界」と直に接しているから魔法は「世界」を欺くことができる。この意味で、魔法式は(「世界」に対して)露出していなければならない・・・・・・・・・・・・・[Ⓝ劣-28-144]

エイドスと事象干渉力

魔法を発動するとき、術者の無意識領域から対象のエイドスに向けて、術者の事象干渉力が直接注ぎ込まれるが、これは術者本人にも「事象干渉力を注いでいる」としか認識できないものである[Ⓝ劣-28-75]

個々の魔法・魔法技術

魔法式の読み取り

魔法式がエイドスに干渉する過程で、改変されまいとするエイドス側からの反作用(エイドスの改変抵抗)により、魔法式がどのような改変を行おうとしているのかを、魔法師は読み取ることができる(魔法式の読み取り[Ⓝ劣-1-109]

情報強化

エイドスの可変性は、『情報強化』で抑制することができる[Ⓝ劣-4-107]

精霊の眼

『精霊の眼』は、エイドスを認識して直接照準することができる。『精霊の眼』に狙われて逃れられる者は、存在しないもの・・・・・・・だけである[Ⓝ劣-4-249]

『分解』『再成』を使いこなすためには、(魔法の対象となる)想子情報体に記述された内容を理解しなければならない。エイドスや魔法式を一塊の情報体として捉えるだけではなく、そこに含まれている情報を認識できなければ、この二つの魔法、特に再成は使えない。司波達也が備えている『精霊の眼』は、まさにそのための力である[Ⓝ㊕続追-27]

仮装行列

アンジェリーナ=クドウ=シールズは、色彩情報・輪郭情報を記録した幻の情報体を作り出した。この情報体には、材質・質量・構造に関する情報は含まれていなかった。司波達也は「身体情報に手応えがない」と感じている[Ⓝ劣-9-222]
これは『仮装行列』という九島家の秘術で、自己のエイドスの外見に関する部分を複写・加工し、異なる外見の、仮面・仮装のエイドスというべきものを魔法式として自分自身に投射して一時的に外見を変えると共に、魔法的な干渉の照準を仮装のエイドスにすり替えることで、自身の本体に対する魔法の作用を防止する術式である[Ⓝ劣-9-232・233]

不老の術法

不老の術法の被術者のエイドスには、肉体の老化を示す情報が重複して刻まれる[Ⓝ劣-18-228]

知覚系魔法

知覚系魔法は、自分の五感を強化するタイプでない限り、エイドスを上書きするものではない。このため、他人からは察知されにくいと言われている。しかし、痕跡が全く残らないというわけではない[Ⓝ劣-21-117]

その他

  • 血液は生命維持に直結するものであり、魔法的に重要な意味を持つ。血液のエイドスは高密度の想子情報体であり、そのエイドスには持ち主のプロパティが詳細に記録されている[Ⓝ劣-15-194]
  • 感応石のエイドスは、電気信号を想子信号に変換する[Ⓝ劣-SS-34]
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