※4/10、いろいろ加筆・修正しました。
※4/12、画像を追加しました。
◇◇◇
第1話感想の続きです。
アニメ・原作それぞれの時系列を整理したうえで、脚本についていろいろ考えてみようかと。
◇◇◇
原作のネタバレがあるのでご注意ください。
また、以後に添付する画像のクレジットは、特に注記が無いものは、「©2023 佐島勤/KADOKAWA/魔法科高校3製作委員会」です。
アニメの流れを確認
まず、アニメの時系列を整理していきます。
アヴァン
日本魔法界の「呪い」
過去シーン(謁見室)
Aパート
始業日の登校シーン
2096年4月6日(金)、レギュラーメンバーがみんなで登校。
新たな制服に身を包む者も。
2年E組
そこに鋼が話しかけてきたが、エイミィに突撃されてしまい、鋼は千秋のほうへ避難する。
生徒会室
司波家
Bパート
入学式直前の見回り
4月8日(日)、入学式当日。
校内を達也が見回っていたところ、真由美と遭遇した。
雑談をしていると、香澄と泉美が登場。泉美が深雪に即堕ちし、香澄は暴走。
恥ずかしさのあまり、真由美は二人を引きずって逃げ出した。
入学式本番
入学式は、特に何事も無く終わる。
アイネブリーゼ
帰り道、アイネブリーゼに立ち寄った達也たち。
琢磨が生徒会入りを断った旨が説明され、じゃあ誰に生徒会に入ってもらうのかという話題になったところで次の場面へ。
生徒会室
生徒会の新役員についてあずさが悩んでいるところへ、服部と花音が訪ねてくる。
それぞれ部活連と風紀委員会の新人についての相談をしに来たのだが、服部は部活連に琢磨が欲しいと宣言。
その後、生徒会の新人についてあずさが相談をもちかける。
メンバー決定
翌々日の4月10日(火)、生徒会室にて、生徒会には泉美が、風紀委員会には香澄が入ることが決まる。
工作員の拘束
場面は大きく変わって、(たぶん)旧愛知県・熱田神宮公園は堀川のほとり。
亜夜子と文弥が、ジャーナリストと人間主義者らを拘束。通信記録を調べた上で、(おそらく)神田議員の調査へと進むことに。周公瑾と顧傑の暗躍
再び場面は大きく変わり、横浜中華街。
周公瑾は、自分の店の地下で顧傑と通信。オフショアタワーテロの失敗と、反魔法主義を浸透させるためのマスコミ工作の進捗度について報告したところで特殊エンディングが始まり、1話終了。原作の流れを確認
次に、原作12巻の内容を確認しつつ、アニメとの違いをチェックしてみます。
原作のネタバレになるので、未読の方はご注意ください。
冒頭部
魔法師の開発
かつての世界情勢と、2030年ごろから本格的に始まった現代魔法師の開発に焦点を当て、そこに潜んでいる闇と、現在の日本魔法界が成立する経緯が簡単に記されている。
四葉本家
「桜井水波」というキャラクターの紹介パート。その前半部分は、アニメ〈来訪者編〉11話のBパート冒頭部で既に描かれた。
4月5日(木)
司波家
主に、水波が加わった司波家における3人の暮らしぶりが描かれるパートになっている。
また、今年の新入生たちについて達也が懸念している様子や、北山家のパーティーに水波も出席するよう達也が命じている様子なども描かれている。
北山家のパーティー
達也・深雪・水波の3人が雫の家族と初めて顔を合わせ、また小和村真紀と初めて出会うするパート。
真紀のマンション
琢磨と真紀が密会するパート。二人のキャラクターや関係性、それぞれの目的などが描かれる。
琢磨が達也に向けて苗字を強調する理由や、琢磨が生徒会に入らなかった理由なども、ここで開陳されている。
熱田神宮公園
亜夜子と文弥が、ジャーナリストと人間主義者らを拘束するパート。横浜中華街
周公瑾が顧傑に連絡をとり、マスコミ工作の進捗状況を報告するパート。周公瑾の行動目的や、顧傑に対する感情などについても説明される重要部分。
4月6日(金):一高始業日
登校シーン①
達也と深雪の二人での登校を描いたパート。
登校シーン②
エリカ・レオ・美月・幹比古・ほのか・雫の6人が、達也と深雪に合流するパート。ここは、〈ダブルセブン編Ⅰ〉でそのまま描かれた。
2年E組
エリカ・レオが達也・美月の教室を訪ねるパート。
1限目のE組
E組を担当する指導教師、ジェニファー・スミスが登場するパート。
生徒会室での昼食会
あずさ、花音、啓、達也、深雪、ほのか、雫、幹比古の8人での昼食会のパート。生徒会・風紀委員会の、新メンバーの顔合わせも兼ねている。
放課後に予定している入学式の打ち合わせの話や、今年の新入生総代についての雑談もなされる。
琢磨についての会話①
帰宅した達也と深雪が、琢磨について話し合うパート①。
回想(放課後の生徒会室)
生徒会メンバーと七宝琢磨の顔合わせを回想するパート。
琢磨についての会話②
帰宅した達也と深雪が、琢磨について話し合うパート②。
アニメでもおおむねそのまま再現されているが、細かい部分が異なり、脚本の方針が感じとられる。
4月8日(日):入学式
講堂準備室
生徒会と風紀委員会による、式直前のリハーサルが行われるパート。
達也の校内巡回①
校内を巡回していた達也が、真由美と遭遇し、また香澄・泉美と出会うするパート。
「ナンパ男」に香澄が魔法攻撃を仕掛け、真由美が怒り、泉美が仲裁に入る。
達也の校内巡回②
迷子になっているケントを達也が発見し、世話を焼いてやるパート。
式直前の講堂
講堂に入った香澄と泉美が、達也について会話するパート。
入学式本番
式本番は、原作ではアニメ以上にあっさりと終了した。(アニメの方が描写が細かい)
琢磨の勧誘拒否
あずさと啓が琢磨を生徒会に勧誘するものの、断られるパート。
講堂での後片付け
入学式に来賓として訪れていた与党議員、上野のあしらいに苦労している深雪に、真由美から救いの手が差し伸べられるパート。
上野への挨拶を終えた香澄と泉美が、初めて深雪に挨拶するパートでもある。
アイネブリーゼ
達也、深雪、水波、ほのか、雫、幹比古の6人でアイネブリーゼを訪れるパート。
生徒会室
あずさが生徒会の新メンバーについて悩んでいるところに、服部が訪ねてくるパート。
4月10日(火)
生徒会室
香澄と泉美が生徒会に勧誘され、泉美の生徒会入りが決定するパート。
カフェテリア
小野遥が香澄に風紀委員会を薦め、香澄がこれを了承するパート。第1話部分 おわり
以上、原作12巻193Pまでの範囲が、アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉で描かれたことになる。
(残り253P)
イベントの時系列を整理する
変更点の視覚化
アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、原作からカットされた部分と、タイミングが変更されたように見える部分、および話の流れが変更された部分があった。
脚本の考察に入る前に、これらについて把握しておきたい。
まず表で整理
ということで、次のような表を作成した。
これは、〈ダブルセブン編Ⅰ〉にまつわるイベントを整理してまとめたものである。
※吸血鬼事件、南盾島事変、およびオフショアタワーテロ周りのイベントは、混ぜるとかえってややこしくなり理解しがたくなるため、あえて除いている。
見やすくした
時系列を整理したは良いものの、見づらくて仕方なかったので、よりシンプルな図に書き直してみた(次図)。
〈ダブルセブン編Ⅰ〉のアヴァンもカットし、原作12巻との対比を際立たせる方針で作成した。
上段の灰色文字は、アニメ化されずにカットされた内容を示している。
また、赤矢印で「そこそこ原作どおりに描かれた部分」を。
橙矢印で「時系列の移動を伴う変更があった部分」を示した。
注目した変更点
カットされた内容
カットされた内容で筆者が注目したのは、5日の北山家のパーティーから琢磨・真紀の密談に至るシーンと、6日のジェニファーのシーン&8日のケントのシーン、8日の上野のシーン、そしてアイネブリーゼでの達也と幹比古の密談、この4点だった。
①北山家のパーティー ~ 琢磨と真紀の密談
ここはボリューミーなパートだが、無視してもストーリー進行にさほど問題は出ないと思う(個人的には北山夫妻を眺めたかったが)。
しかしその後の琢磨・真紀の密談は、「新秩序」の概念が初めて登場するパートである。
個人的には「新秩序」は『魔法科』における重要ポイントの一つだと思うのだが、真紀の登場シーンとともにカットされたということはまさか……。
②スミス親子
その次の、ジェニファーとケントの親子がまとめてカットされたことについては、この二人は確かにそれほど重要とは言えない。
しかし、〈ダブルセブン編〉における恒星炉公開実験や、〈スティープルチェース編〉における技術スタッフとしての出番、〈孤立編〉における達也と百山の問答のシーンなどを考えると、完全無視はできないキャラクターでもあるはずだ。
アニメ第3期の間に登場するかどうか、注目したい。
③上野議員
上野議員については、現時点ではカットされてもそれほど問題はないように思う。
見方によっては、達也と真由美の再会という素敵なシーンと、泉美・香澄・真由美によるコミカルなシーンに挟まれて消えざるを得なかった、可哀想なキャラクターかもしれない。
とはいえアニメ化が今後も続くならば、上野はまた出て来ることになる。そのときにはそれなりに重要な働きをするので、アニメ第4期での活躍を祈っている。
④達也と幹比古の密談
アイネブリーゼでの二人の密談はエリカの出自についてのもので、〈スティープルチェース編〉の裏側のストーリーに密接に関わる内容になっている。
作品の設定という点でも、また物語の進行という意味でも非常に重要な密談なのだが、アニメ第3期が1クールで終わるならば、サブストーリーとしてカットされても仕方ないかもしれない。
時系列が変更された内容
時系列については、大きく3つの変更点があった。
①達也と3姉妹の掛け合い
すでに述べたように、達也と真由美が再開するシーンと、泉美が深雪に一目ぼれするシーンは、数時間レベルで離れた二つのパートである。
そんな2つの場面を統合しようという発想は、「凄い」の一言に尽きるというのが、率直な感想だ。
しかもこれにより、尺を大幅に短縮しつつも、視聴者に違和感を抱かせないことに成功している。
②生徒会・風紀委員会と琢磨の顔合わせ
①と同じようにこの場面も、数時間レベルで離れた二つのパートが統合されたものだ。
もともとは「生徒会と風紀委員会の顔合わせ兼昼食会パート」と「生徒会と琢磨の顔合わせパート」であり、それぞれ昼休みと放課後の話である。
これを統合した結果、幹比古・雫・花音も琢磨との顔合わせに同席するよう、ストーリーが変更された。
なお、後日の香澄の風紀委員会勧誘について、小野遥の役割が花音に変更されたわけだが、花音がいきなり香澄を勧誘したことに違和感があまり無かった。
もしかすると、この統合で花音が前面的に出てきたために、すんなりと受け入れられた部分もあったのかもしれない。
③ヤミ&ヨル、周公瑾&顧傑
亜夜子・文弥の活躍シーン、および周公瑾と顧傑の謀略のシーンは、おそらく4月10日に移されたと思われる。原作のこの後の展開を確認してみても、この時系列移動がストーリーに大きな影響をもたらすとは思われず、秀逸と言うほかない。
何より、全体として平和に終わりそうな第1話を一気に引き締めるという点で、良いヒキになっているのではないだろうか。
まとめ
ストーリーが破綻しない範囲でかなり大胆な脚本を敷き、原作の多くの部分をカット、イベントの時系列もいくつか変更したが、視聴者に違和感を持たせることなく、楽しませることに成功したと言えるのではないだろうか。
脚本で感じたこと
最後に、1話の脚本について個人的に思ったことを、以下に羅列しておく。
重厚なテーマを「呪い」というキーワードでまとめている
まず、〈ダブルセブン編Ⅰ〉アヴァンにおける深雪の語りは、アニメ第3期全体を通して重要な内容になりそうなので引用しておく。
魔法。それは情報体を改変し、事象を変化させる技術。世界を、変える力。人を癒し、命を救うこともできる。国家すら、破壊することができる。
既成概念を崩す、時代の変革者。魔法を使う者は、魔法師と呼ばれるようになった。
しかし、一世紀近くの時が流れた現在、魔法師の血族は、様々なしがらみに囚われていた。
それは呪いでもあった。
私にとっても。
司波深雪,〈ダブルセブン編Ⅰ〉アヴァン
最後に出てくる「呪い」という言葉が、今後のキーワードになると思う。
ティザーPVでもこれと同じ語りが入っていることからも、アニメ第3期では「呪い」が重要視されているのだろう。
これは魔法師を縛り付ける様々なしがらみ全般を指した表現だと思われるが、深雪に限って言えば、この言葉は「自身に課せられた責任」という風に整理できるだろう。
このあたりに着目して、少し考えをめぐらせてみたい。
各編における「呪い」と「しがらみ」
まず、原作8巻、12~15巻、およびSS巻における「呪い」と「しがらみ」について整理する。
8巻〈追憶編〉
〈ダブルセブン編Ⅰ〉アヴァンで触れられた2095年11月6日のパートにおいて、原作では旧第四研が抱える闇や、魔法師の人権が事実上制限されていること、深雪の「責任」などについて記されている。
また、「灼熱のハロウィン」が世界に与えた影響についてもさりげなく描かれるのだが、後から振り返ってみると、ここは非常に重要な内容だろう。
12巻〈ダブルセブン編〉
12巻では冒頭部で、現代魔法師の開発の歴史とその裏側について書かれている。
そして本編では、「しがらみ」のひとつから魔法師が脱却するための第一歩とも言える、『恒星炉公開実験』について描かれる。
13巻〈スティープルチェース編〉
2096年度の九校戦を描く13巻では、九島家にかつて降りかかった、そして今もなお降りかかり続けている、自業自得としか言えない「呪い」について描かれる。
また、十師族と国防軍の「しがらみ」についても語られることとなり、一朝一夕とはいかない、現実の難しさが表現される。
14・15巻〈古都内乱編〉
14・15巻では、同年秋の論文コンペが描かれる。
コンペを巡って生徒たちが頑張る裏側で、日本の古式魔法師に掛かり続けてきた「呪い」、そして四葉家が四葉家自身にかけてきた「呪い」について描かれる。
そして物語は、ここでひとつの区切りを迎えることとなる。
SS巻
作中掌編『薔薇の誘惑』において、千葉家・西城家・ローゼン家をとりまく「しがらみ」もしくは「因縁」について描かれている。
物語の転換点、〈四葉継承編〉へつなぐ道筋
以上、8巻・12~15巻・SS巻について整理したわけだが、ここで着目した「呪い」「しがらみ」は、16巻〈四葉継承編〉へと、さらにはその先の物語へとつなぐための道標として扱うことができる。
そう思った理由を、以下に述べる。
アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉において、目元のアップや強く組み合わされた両手の描写などによって、深雪の苦しい内心が表現された。
しかし原作12巻では、このような苦しさはまったくうかがえない。むしろ「 香澄と泉美が達也に恋することはない」と確信し、ご機嫌な様子を見せているほどだ。
この変更はかなり大きなものだと思う。原作12巻では(たぶん)描かれていない「深雪のナイーブな心の裡」に対して初手から焦点を当てることで、内心に関する余計な描写を減らせるし、また第3期のストーリーに1話目から一本の軸を通すことができる。
また、アニメ第3期の直後にあたる原作16巻〈四葉継承編〉、そしてその先の流れを考えてみても、深雪の内心が当面のストーリーの中心になっていることは間違いない。少なくとも、20巻〈南海騒擾編〉のあたりまでは、深雪の内心がストーリーの構成において重要な役割を果たす。
『魔法科』シリーズのストーリーの重心が「深雪の内心」から「魔法師のしがらみ」へと移るのは、21巻〈動乱の序章編〉のあたりからだろう。この重心移動はグラデーション的に、徐々に徐々に進んでいく。
23巻〈孤立編〉を経て24巻〈エスケープ編〉に至れば、物語の重心は完全に「深雪の内心」から「魔法師のしがらみ」そして「世界情勢」に移行し、達也の判断と行動が物語の中心となっていく。
以上の考えをまとめると、アニメ第3期の製作陣は、無印の『魔法科高校の劣等生』シリーズ中盤を構成する主軸として、「深雪の不安定な心の変遷」と「心の安定に至る経緯」を選んだのではないだろうか?
16巻〈四葉継承編〉以降のシリーズ展開も見込んで、あるいは期待をかけて、そのように主軸を設定したのではないだろうか?
「司波深雪の不安定な心情」という、おそらくは多くの人が受け容れやすいであろう内容を中心に据えた構成を選択し、それに矛盾しないやり方で物語の肉付けを進めていくために、第1話からこの部分を強調したのかもしれない。
感想② おわり
長くなりましたが、感想②〈時系列・脚本編〉はこんな感じで。
個人的な予想がたくさん入りましたが、まぁ当たってたらオモロイなぁ、くらいのノリで楽しんでいただければ幸いです。
次回、〈音楽・ノンクレジットOP編〉で終わりにしたいと思います。
それでは!