アニメ第3期考③ ‐ 第1話感想②〈時系列・脚本編〉

作品考察
アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉より.©2023 佐島勤/KADOKAWA/魔法科高校3製作委員会

※4/10、いろいろ加筆・修正しました。
※4/12、画像を追加しました。

◇◇◇

第1話感想の続きです。

アニメ・原作それぞれの時系列を整理したうえで、脚本についていろいろ考えてみようかと。

◇◇◇

原作のネタバレがあるのでご注意ください。

また、以後に添付する画像のクレジットは、特に注記が無いものは、「©2023 佐島勤/KADOKAWA/魔法科高校3製作委員会」です。

アニメの流れを確認

まず、アニメの時系列を整理していきます。

アヴァン

日本魔法界の「呪い」

四葉の村の施設を背景に、魔法魔法師について簡単に説明したうえで、日本魔法界にある様々なしがらみを「呪い」と表現。

こうした「しがらみ」は、深雪にとっても「呪い」であるということを紹介。

過去シーン(謁見室)

原作8巻〈追憶編〉の冒頭3ページ分。

Aパート

始業日の登校シーン

2096年4月6日(金)、レギュラーメンバーがみんなで登校。

新たな制服に身を包む者も。

2年E組

達也美月が、教室を訪ねてきたエリカレオと雑談しているシーン。

そこにが話しかけてきたが、エイミィに突撃されてしまい、鋼は千秋のほうへ避難する。

生徒会室

生徒会風紀委員会の新メンバー顔合わせののち、入学式の打ち合わせへ。

ここで、七宝琢磨の初登場となった。

司波家

七草家への対抗心から、七宝家十師族への執着心が強い。そのことを踏まえて、達也は琢磨について分析・評価。「いずれ軋轢あつれきを起こすだろう」と述べる。

Bパート

入学式直前の見回り

4月8日(日)、入学式当日。

校内を達也が見回っていたところ、真由美と遭遇した。

雑談をしていると、香澄泉美が登場。泉美が深雪に即堕ちし、香澄は暴走。

恥ずかしさのあまり、真由美は二人を引きずって逃げ出した。

入学式本番

入学式は、特に何事も無く終わる。

アイネブリーゼ

帰り道、アイネブリーゼに立ち寄った達也たち。

琢磨が生徒会入りを断った旨が説明され、じゃあ誰に生徒会に入ってもらうのかという話題になったところで次の場面へ。

生徒会室

生徒会の新役員についてあずさが悩んでいるところへ、服部花音が訪ねてくる。

それぞれ部活連と風紀委員会の新人についての相談をしに来たのだが、服部は部活連に琢磨が欲しいと宣言。

その後、生徒会の新人についてあずさが相談をもちかける。

メンバー決定

翌々日の4月10日(火)、生徒会室にて、生徒会には泉美が、風紀委員会には香澄が入ることが決まる。

工作員の拘束

場面は大きく変わって、(たぶん)旧愛知県熱田神宮公園堀川のほとり。

亜夜子文弥が、ジャーナリストと人間主義者らを拘束。通信記録を調べた上で、(おそらく)神田議員の調査へと進むことに。

周公瑾と顧傑の暗躍

再び場面は大きく変わり、横浜中華街

周公瑾は、自分の店の地下で顧傑と通信。オフショアタワーテロの失敗と、反魔法主義を浸透させるためのマスコミ工作の進捗度について報告したところで特殊エンディングが始まり、1話終了。

原作の流れを確認

次に、原作12巻の内容を確認しつつ、アニメとの違いをチェックしてみます。

原作のネタバレになるので、未読の方はご注意ください。

冒頭部

魔法師の開発

かつての世界情勢と、2030年ごろから本格的に始まった現代魔法師の開発に焦点を当て、そこに潜んでいる闇と、現在の日本魔法界が成立する経緯が簡単に記されている。

アニメとの違い

アニメで深雪が「呪い」と呼んでいるしがらみについては、原作12巻の冒頭部では、ほとんど描かれていない。
強いて挙げるなら、「自主的な婚姻」について少しだけ触れられているくらいだろう。

四葉本家

「桜井水波」というキャラクターの紹介パート。
その前半部分は、アニメ〈来訪者編〉11話のBパート冒頭部で既に描かれた。

アニメとの違い

後半部分は、原作とアニメで大きく異なる。

アニメ〈来訪者編Ⅺ〉では4月5日、水波はオフショアタワーへ向かうよう真夜に命令される。
いっぽう原作では2月、水波は第一高校を受験し、深雪の元に行くよう真夜に命令される。

4月5日(木)

司波家

主に、水波が加わった司波家における3人の暮らしぶりが描かれるパートになっている。

また、今年の新入生たちについて達也が懸念している様子や、北山家のパーティーに水波も出席するよう達也が命じている様子なども描かれている。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

北山家のパーティー

達也・深雪・水波の3人がの家族と初めて顔を合わせ、また小和村真紀と初めて出会うするパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

真紀のマンション

琢磨と真紀が密会するパート。

二人のキャラクターや関係性、それぞれの目的などが描かれる。
琢磨が達也に向けて苗字を強調する理由や、琢磨が生徒会に入らなかった理由なども、ここで開陳されている。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

熱田神宮公園

亜夜子文弥が、ジャーナリストと人間主義者らを拘束するパート。

アニメとの違い

原作とアニメでは、おそらく日時が違っている。
原作ではおそらく4月5日で、アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉ではおそらく10日だろう。
ただし、これらは原作とアニメそれぞれの構成からの、「おそらくそうだろう」という推測に過ぎない。
いずれの場合にも日時が明記されていないため、断言はできない。

また、非常に残念ながら、文弥と黒羽家の黒服たちとの掛け合いがカットされている。

横浜中華街

周公瑾顧傑に連絡をとり、マスコミ工作の進捗状況を報告するパート。

周公瑾の行動目的や、顧傑に対する感情などについても説明される重要部分。

アニメとの違い

上記と同じ理由で、原作とアニメでは、おそらく日時が違っている。
また報告内容について、アニメでは「オフショアタワーテロの失敗」が追加されている。

なお周公瑾の内心については、〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。
ただし顧傑に対する感情については、表情に出ているようにも見える。

4月6日(金):一高始業日

登校シーン①

達也と深雪の二人での登校を描いたパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

登校シーン②

エリカレオ美月幹比古ほのか・雫の6人が、達也と深雪に合流するパート。

ここは、〈ダブルセブン編Ⅰ〉でそのまま描かれた。

2年E組

エリカ・レオが達也・美月の教室を訪ねるパート。

アニメとの違い

エリカが千秋を睨みつけたり、達也がいさめる風の煽り文句をかましたりするシーンがカットされている。

また、アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉ではスバルが登場したが、原作では登場しない。

1限目のE組

E組を担当する指導教師、ジェニファー・スミスが登場するパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

生徒会室での昼食会

あずさ花音、達也、深雪、ほのか、雫、幹比古の8人での昼食会のパート。
生徒会風紀委員会の、新メンバーの顔合わせも兼ねている。

放課後に予定している入学式の打ち合わせの話や、今年の新入生総代についての雑談もなされる。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では昼食会ではなく、おそらく放課後となっている。
また、顔合わせ直後に七宝琢磨がやって来る点も異なる。

なお、幹比古の動きを雫が目線で制するシーンは、原作では描かれていない。

琢磨についての会話①

帰宅した達也と深雪が、琢磨について話し合うパート①。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、描かれなかった。

回想(放課後の生徒会室)

生徒会メンバーと七宝琢磨の顔合わせを回想するパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では時系列順で描かれたが、原作では達也と深雪が帰宅した後に回想する形で描かれている。

また、アニメでは顔合わせの場に幹比古・雫・花音が同席しているが、原作ではこの3人は登場しない。
これは、原作では生徒会と風紀委員会の新メンバー顔合わせはすでに昼食会で終えているし、また放課後の入学式打ち合わせは、生徒会と新入生総代で行われるものだからだと思われる。

アニメでは省かれた、打ち合わせの具体的な様子についても、原作では描写されている。

琢磨についての会話②

帰宅した達也と深雪が、琢磨について話し合うパート②。

アニメでもおおむねそのまま再現されているが、細かい部分が異なり、脚本の方針が感じとられる。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、「琢磨の不遜さ」に対して深雪が不満を漏らし、達也も七草家七宝家の確執について述べているだけだが、原作では不遜さの裏側に見え隠れする意思についても語られており、達也と深雪はさらに踏み込んで考察を深めている。

また、二人の会話はその後も続くが、ここはアニメでは描かれなかった。

4月8日(日):入学式

講堂準備室

生徒会と風紀委員会による、式直前のリハーサルが行われるパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

達也の校内巡回①

校内を巡回していた達也が、真由美と遭遇し、また香澄泉美と出会うするパート。

「ナンパ男」に香澄が魔法攻撃を仕掛け、真由美が怒り、泉美が仲裁に入る。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、泉美が仲裁に入るシーン、魔法の不正使用を見逃すよう真由美が達也にお願いするシーン、そして達也がピクシー想子センサーの記録を改竄させるシーンがカットされた。

達也の校内巡回②

迷子になっているケントを達也が発見し、世話を焼いてやるパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

式直前の講堂

講堂に入った香澄と泉美が、達也について会話するパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

入学式本番

式本番は、原作ではアニメ以上にあっさりと終了した。(アニメの方が描写が細かい)

琢磨の勧誘拒否

あずさと啓が琢磨を生徒会に勧誘するものの、断られるパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では描かれなかった。

講堂での後片付け

入学式に来賓として訪れていた与党議員、上野こうずけのあしらいに苦労している深雪に、真由美から救いの手が差し伸べられるパート。

上野への挨拶を終えた香澄と泉美が、初めて深雪に挨拶するパートでもある。

アニメとの違い

原作ではこの流れから、深雪を初めて目の当たりにした泉美が即堕ち。そこで水波が余計なことを言い、香澄が怒り、恥ずかしさが限界に達した真由美が2人を連れて逃げ出す……というシーンにつながる。

しかしアニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、この場面は達也と3姉妹が出会うシーンに組み込まれた。
これに伴い上野こうずけと深雪&3姉妹のやりとりもカット。達也と双子が出会うシーンでカットされた部分と併せ、尺の大幅な短縮につながっている。

なお、ここで最も重要なのは、「水波の余計なセリフ」に対する深雪の反応が、原作とアニメで大きく異なる点だと思う。

これについては、後で詳しく考察する。

アイネブリーゼ

達也、深雪、水波、ほのか、雫、幹比古の6人でアイネブリーゼを訪れるパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、幹比古の達也への相談(ローゼン家千葉家の話)がカットされた。

生徒会室

あずさが生徒会の新メンバーについて悩んでいるところに、服部が訪ねてくるパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、服部とともに花音も現れるが、原作では服部だけである。

4月10日(火)

生徒会室

香澄と泉美が生徒会に勧誘され、泉美の生徒会入りが決定するパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉ではこの場に花音も同席しているが、原作では登場せず、したがって香澄の風紀委員会入りというイベントもここでは発生しない。

カフェテリア

小野遥が香澄に風紀委員会を薦め、香澄がこれを了承するパート。

アニメとの違い

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉ではこの場面はカット。遥の役割は花音に変更されている。

第1話部分 おわり

以上、原作12巻193Pまでの範囲が、アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉で描かれたことになる。

(残り253P)

イベントの時系列を整理する

変更点の視覚化

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉では、原作からカットされた部分と、タイミングが変更されたように見える部分、および話の流れが変更された部分があった。

脚本の考察に入る前に、これらについて把握しておきたい。

まず表で整理

ということで、次のような表を作成した。
これは、〈ダブルセブン編Ⅰ〉にまつわるイベントを整理してまとめたものである。

吸血鬼事件南盾島事変、およびオフショアタワーテロ周りのイベントは、混ぜるとかえってややこしくなり理解しがたくなるため、あえて除いている。

見やすくした

時系列を整理したは良いものの、見づらくて仕方なかったので、よりシンプルな図に書き直してみた(次図)。

〈ダブルセブン編Ⅰ〉のアヴァンもカットし、原作12巻との対比を際立たせる方針で作成した。

上段の灰色文字は、アニメ化されずにカットされた内容を示している。
また、赤矢印で「そこそこ原作どおりに描かれた部分」を。
橙矢印で「時系列の移動を伴う変更があった部分」を示した。

注目した変更点

カットされた内容

カットされた内容で筆者が注目したのは、5日の北山家のパーティーから琢磨真紀の密談に至るシーンと、6日のジェニファーのシーン&8日のケントのシーン、8日の上野こうずけのシーン、そしてアイネブリーゼでの達也幹比古の密談、この4点だった。

①北山家のパーティー ~ 琢磨と真紀の密談

ここはボリューミーなパートだが、無視してもストーリー進行にさほど問題は出ないと思う(個人的には北山夫妻を眺めたかったが)。

しかしその後の琢磨・真紀の密談は、「新秩序」 ニュー・オーダー の概念が初めて登場するパートである。
個人的には「新秩序」は『魔法科』における重要ポイントの一つだと思うのだが、真紀の登場シーンとともにカットされたということはまさか……。

②スミス親子

その次の、ジェニファーとケントの親子がまとめてカットされたことについては、この二人は確かにそれほど重要とは言えない。

しかし、〈ダブルセブン編〉における恒星炉公開実験や、〈スティープルチェース編〉における技術スタッフとしての出番、〈孤立編〉における達也百山の問答のシーンなどを考えると、完全無視はできないキャラクターでもあるはずだ。

アニメ第3期の間に登場するかどうか、注目したい。

③上野議員

上野議員については、現時点ではカットされてもそれほど問題はないように思う。

見方によっては、達也と真由美の再会という素敵なシーンと、泉美香澄・真由美によるコミカルなシーンに挟まれて消えざるを得なかった、可哀想なキャラクターかもしれない。

とはいえアニメ化が今後も続くならば、上野はまた出て来ることになる。そのときにはそれなりに重要な働きをするので、アニメ第4期での活躍を祈っている。

④達也と幹比古の密談

アイネブリーゼでの二人の密談はエリカの出自についてのもので、〈スティープルチェース編〉の裏側のストーリーに密接に関わる内容になっている。

作品の設定という点でも、また物語の進行という意味でも非常に重要な密談なのだが、アニメ第3期が1クールで終わるならば、サブストーリーとしてカットされても仕方ないかもしれない。

時系列が変更された内容

時系列については、大きく3つの変更点があった。

①達也と3姉妹の掛け合い

すでに述べたように、達也と真由美が再開するシーンと、泉美が深雪に一目ぼれするシーンは、数時間レベルで離れた二つのパートである。

そんな2つの場面を統合しようという発想は、「凄い」の一言に尽きるというのが、率直な感想だ。
しかもこれにより、尺を大幅に短縮しつつも、視聴者に違和感を抱かせないことに成功している。

②生徒会・風紀委員会と琢磨の顔合わせ

①と同じようにこの場面も、数時間レベルで離れた二つのパートが統合されたものだ。

もともとは「生徒会風紀委員会の顔合わせ兼昼食会パート」と「生徒会と琢磨の顔合わせパート」であり、それぞれ昼休みと放課後の話である。

これを統合した結果、幹比古・・花音も琢磨との顔合わせに同席するよう、ストーリーが変更された。

なお、後日の香澄の風紀委員会勧誘について、小野遥の役割が花音に変更されたわけだが、花音がいきなり香澄を勧誘したことに違和感があまり無かった。

もしかすると、この統合で花音が前面的に出てきたために、すんなりと受け入れられた部分もあったのかもしれない。

③ヤミ&ヨル、周公瑾&顧傑

亜夜子文弥の活躍シーン、および周公瑾顧傑の謀略のシーンは、おそらく4月10日に移されたと思われる。

原作のこの後の展開を確認してみても、この時系列移動がストーリーに大きな影響をもたらすとは思われず、秀逸と言うほかない。

何より、全体として平和に終わりそうな第1話を一気に引き締めるという点で、良いヒキになっているのではないだろうか。

まとめ

ストーリーが破綻しない範囲でかなり大胆な脚本を敷き、原作の多くの部分をカット、イベントの時系列もいくつか変更したが、視聴者に違和感を持たせることなく、楽しませることに成功したと言えるのではないだろうか。

脚本で感じたこと

最後に、1話の脚本について個人的に思ったことを、以下に羅列しておく。

重厚なテーマを「呪い」というキーワードでまとめている

まず、〈ダブルセブン編Ⅰ〉アヴァンにおける深雪の語りは、アニメ第3期全体を通して重要な内容になりそうなので引用しておく。

魔法。それは情報体を改変し、事象を変化させる技術。世界を、変える力。

人を癒し、命を救うこともできる。国家すら、破壊することができる。

既成概念を崩す、時代の変革者。魔法を使う者は、魔法師と呼ばれるようになった。

しかし、一世紀近くの時が流れた現在、魔法師の血族は、様々なしがらみに囚われていた。

それは、十師族に君臨する四葉家でさえも同じ。

それは呪いでもあった。

私にとっても。

司波深雪,〈ダブルセブン編Ⅰ〉アヴァン

最後に出てくる「呪い」という言葉が、今後のキーワードになると思う。

ティザーPVでもこれと同じ語りが入っていることからも、アニメ第3期では「呪い」が重要視されているのだろう。

これは魔法師を縛り付ける様々なしがらみ全般を指した表現だと思われるが、深雪に限って言えば、この言葉は「自身に課せられた責任」という風に整理できるだろう。

このあたりに着目して、少し考えをめぐらせてみたい。

各編における「呪い」と「しがらみ」

まず、原作8巻、12~15巻、およびSS巻における「呪い」と「しがらみ」について整理する。

8巻〈追憶編〉

〈ダブルセブン編Ⅰ〉アヴァンで触れられた2095年11月6日のパートにおいて、原作では旧第四研が抱える闇や、魔法師の人権が事実上制限されていること、深雪の「責任」などについて記されている。

また、「灼熱のハロウィン」が世界に与えた影響についてもさりげなく描かれるのだが、後から振り返ってみると、ここは非常に重要な内容だろう。

12巻〈ダブルセブン編〉

12巻では冒頭部で、現代魔法師の開発の歴史とその裏側について書かれている。

そして本編では、「しがらみ」のひとつから魔法師が脱却するための第一歩とも言える、『恒星炉公開実験』について描かれる。

13巻〈スティープルチェース編〉

2096年度の九校戦を描く13巻では、九島家にかつて降りかかった、そして今もなお降りかかり続けている、自業自得としか言えない「呪い」について描かれる。

また、十師族と国防軍の「しがらみ」についても語られることとなり、一朝一夕とはいかない、現実の難しさが表現される。

14・15巻〈古都内乱編〉

14・15巻では、同年秋の論文コンペが描かれる。

コンペを巡って生徒たちが頑張る裏側で、日本古式魔法師に掛かり続けてきた「呪い」、そして四葉家が四葉家自身にかけてきた「呪い」について描かれる。

そして物語は、ここでひとつの区切りを迎えることとなる。

SS巻

作中掌編『薔薇の誘惑』において、千葉家西城家ローゼン家をとりまく「しがらみ」もしくは「因縁」について描かれている。

物語の転換点、〈四葉継承編〉へつなぐ道筋

以上、8巻・12~15巻・SS巻について整理したわけだが、ここで着目した「呪い」「しがらみ」は、16巻〈四葉継承編〉へと、さらにはその先の物語へとつなぐための道標として扱うことができる。
そう思った理由を、以下に述べる。

アニメ〈ダブルセブン編Ⅰ〉において、目元のアップや強く組み合わされた両手の描写などによって、深雪の苦しい内心が表現された。

しかし原作12巻では、このような苦しさはまったくうかがえない。むしろ「 香澄泉美達也に恋することはない」と確信し、ご機嫌な様子を見せているほどだ。

この変更はかなり大きなものだと思う。原作12巻では(たぶん)描かれていない「深雪のナイーブな心のうち」に対して初手から焦点を当てることで、内心に関する余計な描写を減らせるし、また第3期のストーリーに1話目から一本の軸を通すことができる。

また、アニメ第3期の直後にあたる原作16巻〈四葉継承編〉、そしてその先の流れを考えてみても、深雪の内心が当面のストーリーの中心になっていることは間違いない。少なくとも、20巻〈南海騒擾編〉のあたりまでは、深雪の内心がストーリーの構成において重要な役割を果たす。

『魔法科』シリーズのストーリーの重心が「深雪の内心」から「魔法師のしがらみ」へと移るのは、21巻〈動乱の序章編〉のあたりからだろう。この重心移動はグラデーション的に、徐々に徐々に進んでいく。
23巻〈孤立編〉を経て24巻〈エスケープ編〉に至れば、物語の重心は完全に「深雪の内心」から「魔法師のしがらみ」そして「世界情勢」に移行し、達也の判断と行動が物語の中心となっていく。

以上の考えをまとめると、アニメ第3期の製作陣は、無印の『魔法科高校の劣等生』シリーズ中盤を構成する主軸として、「深雪の不安定な心の変遷」と「心の安定に至る経緯」を選んだのではないだろうか?

16巻〈四葉継承編〉以降のシリーズ展開も見込んで、あるいは期待をかけて、そのように主軸を設定したのではないだろうか?

「司波深雪の不安定な心情」という、おそらくは多くの人が受け容れやすいであろう内容を中心に据えた構成を選択し、それに矛盾しないやり方で物語の肉付けを進めていくために、第1話からこの部分を強調したのかもしれない。

感想② おわり

長くなりましたが、感想②〈時系列・脚本編〉はこんな感じで。

個人的な予想がたくさん入りましたが、まぁ当たってたらオモロイなぁ、くらいのノリで楽しんでいただければ幸いです。

次回、〈音楽・ノンクレジットOP編〉で終わりにしたいと思います。

それでは!

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