パラサイドール事件について整理してみる

世界観・世界情勢
©2023 佐島勤/KADOKAWA/魔法科高校3製作委員会

さまざまな勢力の思惑が複雑に絡み合い、非常にややこしかった〈スティープルチェース編〉。

放送が終わったところで、今回描かれた陰謀の整理にチャレンジしてみようと思う。

個人的な信条として、「複雑な事柄を無理に簡単化して理解しようとするべきではない」と思っているので、背景の複雑さはそのままに、しかしできるだけ裏事情を紐解きながら整理するよう努めたい。

なお、引用する情報は原典(原作、BD/DVD付属のガイドブック、公式ガイドブック『アニメ「魔法科高校の劣等生」ノ全テ』、など)に限定する。アニメとは若干の齟齬が出るかもしれないけれど、そこはご容赦を。

また、僕自身の推測もしばしば交えるので、「絶対に正しい」とは言えないこともご了承ください。

原作のネタバレがあるのでご注意ください。

また、以後に添付する画像のクレジットは、特に注記が無いものは、「©2023 佐島勤/KADOKAWA/魔法科高校3製作委員会」です。

背景の確認

まず、背景となっている世界情勢について、日本大亜連合の関係を中心に確認する。

世界規模の急激な寒冷化が始まり、2030年ごろから各地で食料生産が困難となる事態に直面。難民の大量発生と不法移民が問題化し、受け入れを拒む国境地帯の混乱から国境紛争に発展する流れがあった[Ⓝ劣-8-19,全テ-142]

②2020年代から進められていた農業生産の太陽光工場化により、先進国がこうむった影響は限定的だった。しかし、急激な経済成長により人口爆発を加速させていた新興工業国が受けた打撃は深甚なものだった。食糧問題を解決するため限られたエネルギー資源を奪い合う戦いが、同時多発する紛争の件数を引き上げた[Ⓝ劣-8-19,全テ-142]

③最も深刻な事態に直面したのは、寒冷化と砂漠化が同時に進行した中国華北地域だった。華北の住民は民族的な伝統、すなわち越境殖民(不法入植)によって事態を乗り切ろうとした。当然ロシアがこれを許すはずもなく、実力を以て、流血を厭わず、徹底的に排除した[Ⓝ劣-8-19,管補]
こうして2045年、中露の国境紛争が表面化。中国は人道、ロシアは国際法の名の下に、互いに非難の応酬を交わした。人道と国際法を大義名分に掲げ、食糧とエネルギーを巡る争いが世界中に広まっていったのはここからだ。(おそらくそういう理由で)この中露国境紛争が第三次世界大戦の始まりと認識されている[Ⓝ劣-8-19,全テ-142,管補,管推]

④大国が周辺国に半ば公然と侵略行為を行うようになり、世界のほぼすべての国家が戦争に関わるようになった[全テ-142]

日本でも2060年、大亜連合高麗自治区軍によって、対馬を半年間占領されるという事件が起こっている。このときには島の住民の7割が殺され、1割が拉致され、脱出した2割も重軽傷を負った(対馬侵攻事件[Ⓝ劣-7-321,8-267]。対馬はその後奪還され、事件の反省から島は日本政府によって要塞化された(対馬要塞[Ⓝ劣-7-321]
事件後、日本は大亜連合を共通の敵とする大漢と、同盟国とまでは行かないが軍事的な協力関係にあった[Ⓝ劣-8-267]

東亜大陸では、大戦勃発後の早い時期に中国が南の大漢と北の大亜連合に分裂して争っていた[Ⓝ劣-8-267]。これについて大亜連合は「地方軍が暴走し、大漢が独立を僭称した」「大漢との戦争は(対外戦争ではなく)内戦である」という認識を示している[Ⓝ劣-13-101,管補]
しかし2064年、大漢が四葉家の復讐により崩壊(大漢崩壊事件)。大亜連合が東亜大陸を統一し、2065年の(北半球における)大戦終結につながった[Ⓝ劣-8-286・287,全テ-142,管補]

⑥ただし、2070年代には大越紛争[Ⓝ劣-11-113]、2089年ごろには「北極の隠された戦争」アークティック・ヒドゥン・ウォーが起こるなど[Ⓝ劣-23-140,24-280]、各国は統一される気配すらなく、世界情勢はいまだ安定から程遠い[Ⓝ劣-1-13]

⑦大戦は終わったが、日本と大亜連合の間には講和条約どころか休戦協定も締結されていない[㊮GB-劣1-1巻-17]。これはつまり、戦争状態が継続されているということである[管注]。実際、2092年8月には沖縄海戦が、2095年10月には横浜事変が勃発した。

⑧横浜事変は日本と大亜連合の間に戦端を開かせるに十分な事態であったが、「灼熱のハロウィン」によってこれは免れた[全テ-142]

⑨2095年11月半ば、大亜連合に講和条約締結を促し、日本の勝利を決定的なものとするための示威行動として、新ソ連に備える部隊を除いた国防海軍の全艦艇が出動。十三使徒五輪澪も同行しており、日本は事実上の総力戦の構えを見せる[Ⓝ劣-11-357,20-2・48,全テ-142]

⑩幸い砲火を交えることにはならず、翌12月、大亜連合が東南アジア同盟の仲立ちで休戦を申し入れ、日亜休戦協定が結ばれた[Ⓝ劣-20-2・48,全テ-142]

⑪そして2096年3月、日本の主張をほぼ受け容れる形で日亜講和条約が締結され、日亜関係は表向き正常化されたことになっている[Ⓝ劣-20-2・48,全テ-142]

⑫ただし、日本にも大亜連合にも講和に反対する勢力が存在している[Ⓝ劣-20-2・49]

⑬なお国際連合については、2030年代に機能が麻痺し、2050年代に消滅した。21世紀末においては国連のような機関は存在していないが、一部の機能の代替として観戦武官制度が復活している[Ⓝメ-7-55,管補]

各勢力の思惑

ここから、〈スティープルチェース編〉に登場する各勢力の思惑について整理していく。

国防軍

対大亜連合強硬派

対大亜連合強硬派の中心人物である酒井大佐には、2092年の佐渡侵攻事件の折、佐渡島奪還後に新ソ連への逆侵攻を試みようとしたという過去がある(一条将輝談)[Ⓝ劣-13-237]

酒井たちは大亜連合に妥協することの危うさを粘り強く訴え続け、「ハロウィン」後も講和に反対していた。この機に更なる打撃を加え、長期にわたりその脅威を取り除くべきだと、日亜開戦を主張していた。首脳部が早期の停戦を決めてしまっても腐らずに主張を説き続けた結果、横浜事変以前は軍内でほとんど賛同を得られなかった彼らが、理解者・支持者を着々と増やしていた[Ⓝ劣-13-124・125,16-79]

しかし日亜講和条約が締結され、結果的に本件は軍事的威嚇にとどまった。これはかえって強硬派グループの結束を高めることとなり、国防軍幹部にとっても無視し得ない勢力に成長した。(九校戦の競技を変更せよという)魔法協会に対する圧力が容認されたのは、強硬派の不満をなだめるという側面が大きい[Ⓝ劣-13-125,管補]

なお彼らが強硬論を唱えているのは、ひとえに愛国心の故である。大亜連合に対する決定的な勝利こそが日本に平和をもたらすと信じており、(あくまで平和的な手段で)開戦に反対するものを説得するか黙らせなければならないと決意している[Ⓝ劣-13-298,管補]

国防陸軍総司令部の上層部

(九校戦の競技種目変更が公表されたタイミングで)国防陸軍総司令部は九校戦の開催に協力するよう第一〇一旅団に打診した[Ⓝ劣-13-69,管補]
ここの一連の描写にはいくつかの意図が込められているのだが、京言葉というか政治言語というか、とにかく分かりにくいので、以下で整理する。

まず前提として、第一〇一旅団の旅団長である佐伯広海は、十師族、および十師族に支配された現在の日本魔法界の在り方について批判的である。これは総司令部にも知れ渡っている話である[Ⓝ劣-13-70]

今回、国防軍による競技種目変更の要請に対し、(九校戦の主催者である)日本魔法協会は形ばかりの抵抗しかしなかった。九島烈も反対はしなかった[Ⓝ劣-13-69,管補]

(日本魔法界の長老である)九島烈が反対していないということは、十師族が認めているに等しいものと解釈することができるだろう[管推]。国防陸軍の上層部はそんな案件を、命令ではなくあえて「打診」という形で、佐伯のところに持ってきた[Ⓝ劣-13-70]。佐伯が十師族に批判的であることを知っているのに、だ[管想]

つまりこの話には、まず「上層部による佐伯への嫌がらせ」という側面がある[Ⓝ劣-13-70]

意訳するなら、たとえば「アンタが十師族嫌いなんは知ってるけど、協力してくれへん? 嫌やったら別にエエけども(もし逃げたら批判材料にしたろw)」みたいな感じか?笑

まぁこれは単純に、組織あるあるの話だろう。

そしてもうひとつの側面。

佐伯が十師族に批判的であるという話は、日本魔法協会も承知しているかもしれない。だとすれば、「なんでそんな人を寄越すんだ」と苛立つだろう。
知らなかったとしても九校戦開催の協力過程で、佐伯は魔法協会に嫌味の一つや二つ、足を引っ張る作業の三つや四つはする……かもしれない。協力すると言いながら非協力的な対応をするとか、そういうことをする、、、かもしれない。

それなのに、上層部は佐伯に話を持ってきた。つまり上層部は、佐伯だけでなく日本魔法協会にも嫌がらせをしているのだ[Ⓝ劣-13-70]

ではなぜ、上層部は日本魔法協会にこんな嫌がらせをするのか。佐伯の推測によれば、それは「魔法協会(≒十師族)が国防軍に対して発言力を強めているのが気に入らないから」[Ⓝ劣-13-70]である。
裏返せば、上層部のこの行動は、「十師族に依存することの危険性を上層部も感じ始めた」[Ⓝ劣-13-70]ことの表れだと言える。

だから「やっと上層部も気づいてくれたか」という意味で、風間は「ようやくでありますか」[Ⓝ劣-13-70]と言ったわけだ。分かりにくい!笑

なお、原作では地の文も含めて語られたこのあたりの内容を、アニメでは噛み砕き整理して風間に喋らせていた。

佐伯広海

佐伯は、上記の打診を受諾する一方で、独立魔装大隊には待機を命じた[Ⓝ劣-13-70]。これは以下の理由による。

競技種目の変更について、九島烈は反対しなかったばかりか、むしろ積極的な姿勢を見せた。「魔法師を兵器として扱うのは止めるべきだ」「若い魔法師が軍事の犠牲になる姿は見たくない」というのが烈の考えだったはずだ。しかし今回、烈は正規の軍魔法師でも音を上げるほどの厳しい教練であるスティープルチェース・クロスカントリーに強い関心を示した。これは九島烈という人物の変節に見えるが、烈に限ってそんな単純な話であるはずがない。何か裏があるに違いないが、そこはまだよくわからない[Ⓝ劣-13-70・71]

そして佐伯は本件について、藤林家九島家と歩調を揃えて何事かを画策していることをキャッチしている。そして独立魔装大隊には、藤林家の令嬢である藤林響子が所属している[Ⓝ劣-13-71]

きな臭い企みがあって、そこに響子の実家が噛んでいるとなると、佐伯としては警戒せざるを得ない。故に独立魔装大隊には待機を命じ、風間には響子の監視を命じた[Ⓝ劣-13-71,管補]

◇◇◇

次に、原作では九校戦の前夜祭パーティーが行われた日の晩、佐伯のもとに四葉真夜から電話がかかってきた。このときのやりとりについて以下に整理する。

真夜が語ったのは、「第一〇一旅団が陰謀に陥れられようとしている」という話だった。なんと、スティープルチェース・クロスカントリーを舞台とした自作自演のテロが計画されていて、第一〇一旅団はその実行部隊の役割を割り当てられているというのだ。そしてその首謀者は、酒井を中心とする対大亜連合強硬派ということになっている・・・・・・・・・・・、と真夜は言う[Ⓝ劣-13-197]

佐伯も部下たちも、そんなものに踊らされるような愚か者ではない。そう自負しているからこそ、「そのような道化を演じるつもりはない」と佐伯は答えた。しかし一人、例外がいる。達也だ。深雪がスティープルチェース・クロスカントリーに出場する以上、達也は絶対に動く。これについては、真夜も佐伯もどうやら諦めているフシがある[Ⓝ劣-13-198,管補,管推]

四葉家としてもこんな話に踊らされるつもりはない、と真夜は話を続ける[Ⓝ劣-13-198]
まぁ、そんな無茶苦茶な裏事情を知ったなら、やり返したくなるのは人情だろう。

また、やり返さなければならない事情もある。それがスポンサーの意向だからだ[Ⓝ劣-13-201]

真夜は佐伯に「強硬派には本当に・・・黒幕になってもらおうかと考えている」と述べる。黒幕の役割を強硬派に押し付けようという策だ。強硬派のことは佐伯もかねてより苦々しく感じていたので(「大亜連合を潰せば良いというものではない」「世界はそんな単純ではない」というのが佐伯の考えだ)、「強硬派の排除」という方針は真夜と利害が一致する[Ⓝ劣-13-198・199,管補]

そして真夜は、「後始末」を佐伯に依頼した[Ⓝ劣-13-200]
その具体的な内容については、原作でもアニメでも明確には描かれていないが、〈スティープルチェース編〉の最後の場面[Ⓝ劣-13-340∼344]、および原作16巻の内容[Ⓝ劣-16-80]から類推することができる。

達也がパラサイドールを片付けたのち、強硬派は黒羽貢によって捕縛された[Ⓝ劣-13-339]

そして(おそらく黒羽家が)酒井の「自白」を引き出し、その音声データは四葉家から佐伯に提供された。提供の条件は強硬派の粛清と、その後始末を行うことと、音声データそのものは公開しないこと。そうしたことを説明したうえで、佐伯は「国防軍は魔法師に兵器たることを最早強要しない」「軍の魔法師の権利は現役の私たちにお任せください」と語り、九島烈に引導を渡した[Ⓝ劣-13-341∼344,管補,管推]

◇◇◇

さてここで、上記の3つの提供条件について考えてみたい。

まず強硬派の粛清については、「スポンサー」の依頼である[Ⓝ劣-13-201]
これについてはそれ以上でもそれ以下でもなく、話は終わりだ。

次に「後始末」について。真夜が言う「後始末」とは何か?
察するに、捕縛した酒井らを内々で処理し、本件を闇に葬ることだろう。具体的には、確実に軍事刑務所送りにするための根回しとか、不審死させるとか、そんな感じの作業だと思う。
ただし、その過程で九島家の名前が出てしまうと事が穏便に運べないから(もし表に出てしまえば九島家も黙ってはいられないので、下手をすると日本魔法界が割れてしまう)、四葉家が酒井らに洗脳を施すなどして、「九島家も黒幕陣営だった」という事実が表に出ないようにする必要があるかもしれない。
まぁそんなことをせずにゴリ押しするようなやり方もあるのかもしれないが、そこは些事だし筆者にはわからないので、この点についてはこのあたりで置いておきたい[管推]

最後に「音声データを公開しない」という条件について。
ひょっとするとこれは、佐伯にとって大きなカードとなり得る、かもしれない。もし烈がまた軍への関与を強めようとしたならば、そのときは本当に音声データを公開してしまえばいいのだから。
その際には原則として真夜との相談が必要になるだろうが、状況次第では真夜もOKを出すかもしれない。もしOKが出なくても、日本魔法界が割れることを覚悟の上で佐伯は公開してしまうかもしれない。
その時その時の情勢次第で話がどう転ぶかまったく見えないから、こうしたリスクは決して軽視できるものではない。要は、金玉を掴まれてしまっているのだ。
そして何より、佐伯が「あとは我々にお任せください」と断言した。粋じゃあないか!
というわけで、烈は少なくとも今までのような形で軍に関与することは無いだろう[管推]

こうして佐伯は、「国防軍に対する十師族の干渉を弱める」というメリット[Ⓝ劣-13-200]を得ることに成功した。

以上のような内容が、「真夜と佐伯の電話の続き」で語られたのではないだろうか、と筆者は想像している。

いや、真夜も佐伯も魑魅魍魎の世界で生きてきた猛者なので、たったアレだけの会話でツーカーで、互いに全てを理解しているのかもしれない。

でも普通はそんなん無理やと思うので(笑)、実はあの電話には続きがあって、さりげない示唆的・京言葉的・政治家的な言い回しを駆使しながら、詳しい打ち合わせをしたんじゃないのかなぁと、そんな風に思っている。

風間玄信

佐伯と距離が近い風間玄信[Ⓝ劣-13-67]は、本件に関連して「大黒特尉の出動」に佐伯が言及しなかったことに懸念を抱いた。最愛の妹が出場するスティープルチェース・クロスカントリーで陰謀が企てられている旨を達也に伝えないのは大変な愚策ではないかと、内心でそう思っていた[Ⓝ劣-13-73,管補]

◇◇◇

そしてスティープルチェース本番の前夜、九重八雲と藤林響子の前に姿を現した風間は、「自分自身は『パラサイドールは暴走しない』と理解しているが、そのことを佐伯に教えず、響子の行動を制止することもなく、達也がパラサイドールに対処する流れを自らの意思で止めなかった」という意図を匂わせている[Ⓝ劣-13-283]

また原作では、藤林響子の行動の責任を、九島烈の責任にすり替えた(響子自身の意思でもあった可能性には目を瞑った)[Ⓝ劣-13-287,管推]

◇◇◇

九校戦の終了後、原作では九島烈に対し、風間は明確に怒りを露わにした。
その内容は、「未熟な魔法師で魔法兵器の実験を行うとは言語道断」というものだった[Ⓝ劣-13-343]

◇◇◇

以上の点から、九島家の非道を達也に叩き潰させたるため、また大切な部下である藤林響子の愚行・・の責任を烈に押し付けるために、風間は響子を泳がせっぱなしにしてまで達也に暴れさせようとしたのではないか?[管推]

風間が達也に情報を提供しなかったことについては、八雲が言ったように風間にそんな義務は無いし[Ⓝ劣-13-88]、いっぽうで風間が響子をきちんとスネークしていたならば、響子が達也に情報をリークしていること[Ⓝ劣-13-76]にも気づいていたかもしれない。

このような状況下では、あえて情報を提供する理由が無かったのではないか。達也が深雪のためにパラサイドールを破壊しようと行動するのは目に見えているわけだし[管推]

そして、「パラサイドールは暴走しない」旨を響子だけでなく佐伯にも伝えなかった[Ⓝ劣-13-283]理由については、これは完全に推測になるのだが、それを伝えた結果、達也を暴れさせられなくなることを危惧したからだと思う[管推]

風間の立場に立って考えてみると、その気持ちはすごく分かる。いくら魔法師のためとは言え、距離の近い上官である佐伯、大切な部下である響子、部下であり弟弟子でもある達也をさんざん振り回したうえ、下手を打てば3人全員の責任問題にまで発展し得る話だからだ。佐伯が失脚する可能性もあっただろうし、響子はかなりヤバい橋を渡った。達也に至っては多大なる苦労を掛けたうえ、非合法工作員の役割まで負わせてしまった。そのうえ、未来ある魔法師の卵たちを勝手な都合で利用する。このように整理すると、腹立たしく思うのも理解できる[管推]

まぁ、達也が非合法工作員となる点に風間も目を瞑っているので、少々片手落ちな気もするのだが(笑)。

そも風間玄信という人物は、2070年代の大越紛争で、軍上層部の意図に背いて戦闘に直接介入したという経歴を持つ[Ⓝ劣-13-66]、熱いハートの持ち主なのだ(たぶん)。

こういう理由で、風間は九島家に「おこ」だったのかもしれないな、と思っている。

反日工作活動

顧傑

顧傑四葉家を恨んでいる。苦しめばいいと思っている[Ⓝ劣-18-278・279]

そう思うに至る事情に触れてみても、筆者としては筋違いにもほどがあるとしか思えないのだが、実際にそうなってしまっている以上、何を言っても意味がない[管想]

顧傑はとにかく四葉家に復讐がしたい。これが、周公瑾に反日工作を命じたり、七草家に接近する理由となっている……ようなのだが、もはや本人にもよく分かっていないとか何とか[Ⓝ劣-17-191・192,18-278・279,管推]

なお、顧傑がパラサイドールの情報を得ることができた理由については、顧傑は「七賢人」の一人である[Ⓝ劣-11-220]ため、フリズスキャルヴでキャッチしたのではないかと考えている[管推]

周公瑾

華僑である周公瑾は、大亜連合の対日工作に協力する一方で、大亜連合からの亡命を望む人々に様々な便宜を図っている。主な活動内容は日本にたどり着いた亡命者に最終的な受け入れ先を斡旋しそこまでの渡航手段を費用込みで提供することだが、亡命後の政治活動の資金的援助も行っている[Ⓝ劣-13-100]

周が亡命の手引きをした大陸の古式魔法師のうち日本在住を望む者は、伝統派に属する諸家に寄留するのが通例となっていて、このことから周は「自分たちの潜在的な敵対勢力を増強する人物」として、「九」の各家の間で有名な人物となっている[Ⓝ劣-13-104]

アニメ〈スティープルチェース編Ⅰ〉において、周と面会した九島真言が「ご高名はかねがねうかがっております。周さんは有名人ですからね。――このあたりでは」と言っているのは、こうした事情を背景とした皮肉になっている[管推]

周にとって、大亜連合とは「先祖が同じ国に住んでいただけ」という程度の認識である[Ⓝ劣-7-315]
大亜連合に対する愛国心などは全くないものと思われる[管推]

周自身は、国家の力は弱い方が良いと考えている。国家の力が低下すれば、金の力が意味を増す。全ての国家が力を落とせば、国家による締め付けも減り、自分たちは自由に活動できるようになる[Ⓝ劣-7-315]。そんなふうに考えている。

無政府主義アナーキズムなのか何なのか、細かいところはよく分からないが、ひょっとするとこれは華僑としては普通の考えなのかもしれない[管想]

実際、『メイジアン・カンパニー』に登場するアメリカ華僑の朱元允も、似たような考えを抱いているらしい[Ⓝメ-8-102・103・109]

大亜連合と日本

大亜連合政府

大亜連合は、周公瑾の亡命ブローカー活動について承知している。少なくとも対日工作に関わっている軍人と政府関係者にとっては公然の秘密である。それでも周が大亜連合の粛清リストに載らないのは、大亜連合政府にとってもその方が都合が良いからに他ならない。亡命を希望するような人々とは要するに政府に対する不満分子であり、さっさと亡命してくれたほうが政治不安の材料が減る。大亜連合は労働力に不自由していないし、亡命時に資産を全て国外に持ち出すことはできないし、亡命するような人間は資産家であることが多いから、亡命者が多すぎなければ国庫も潤うことになる[Ⓝ劣-13-100∼102]

一般に、亡命先で政治活動を行われて困ることと言えば、その活動が自国内に波及することや、あるいは外交上のマイナス材料にされて経済封鎖の口実にされることだが、大亜連合はいずれも全然気にしていない[Ⓝ劣-13-101,管補]。その理由を以下に示す。

  1. 大亜連合政府は軍部を末端に至るまで完全に掌握している(ので、活動が自国内に波及したとしても大きな問題にはならない)[Ⓝ劣-13-101,管補]
  2. また2096年時点において、大戦前のような緊密な同盟関係は存在しない。世界の四大勢力であるUSNA新ソ連IPU、そして大亜連合のいずれも、軍事的に孤立政策をとっている。USNAとIPUは同盟国を有しているが、その関係は表面的なものであり、領土拡大に乗り出したりしない限りは内政に干渉してくる脅威は無い。このように、普通にしていれば大亜連合の脅威となるような軍事的連携は成立し得ず、ゆえに大亜連合は外交的に非難されても問題ない。政治的・軍事的に孤立しても何ら問題ない[Ⓝ劣-13-101,管補]
  3. では経済的に孤立する怖れについてはどうか。実は、そうなっても大亜連合は問題ない。大亜連合の自給度は高く、経済封鎖を受けても痛くも痒くもない。エネルギー供給には不安があるものの、それは他国でも同じことである[Ⓝ劣-13-102]

このような理由で、周の亡命ブローカー活動は、大亜連合政府から陰でむしろ奨励されている[Ⓝ劣-13-102]

日本国政府

では日本国政府としては、周公瑾の活動をどう見ているのか。

日本は2096年時点において、亡命者(政治難民)の受け入れを厳しく制限している。これは日本に限ったことではないのだが、それは難民条約の枠組自体が大戦で崩壊したままだからである。しかし制限しているだけで、禁止されているわけではない。国家にとって有益な人材であれば話は別で、たとえば強力な魔法師ならば許容し得る[Ⓝ劣-13-102,管補]

このような事情を考えると、日本国政府は周の行動を監視しつつも、今のところは容認している……のかもしれない。しかし完璧に監視できていれば、さすがに有害すぎて排除されるだろう。ということは、政府は周を監視していない、または監視は行っているが「問題ないところだけを見せられている」ということになる[管推]

周にいいようにやられている可能性が……。笑

九島家・藤林家・伝統派

九島烈

九島烈は、魔法師を兵器として扱う流れを止めたいとずっと思っていた[Ⓝ劣-13-36・37・71]
そして2096年2月、ピクシーという妖魔人形に可能性を見出し、達也らが封印したパラサイト黒羽亜夜子と半分こすることに成功[Ⓝ劣-11-]
魔法師の代替兵器としてのパラサイドールの開発をひそかに進めていた[Ⓝ劣-13-28,管補]

そんな折、九校戦を主催する日本魔法協会国防軍対大亜連合強硬派の圧力に屈し、2096年度の種目を変更したことを知った烈は、パラサイドールのテストをスティープルチェース・クロスカントリーの場で行うことにした[Ⓝ劣-13-29・30]
(魔法協会にも干渉して)競技形式を代表参加から全員参加に変更させ、またコースについても長く、広く変更させた[Ⓝ劣-13-71]

八雲いわく、烈は「忠誠術式を掛けておけば問題ない」と思い込んでいる[Ⓝ劣-13-284,管補]
実際、九鬼鎮との会話の中で、烈は死亡者どころか怪我人も出ないと請け合っている[Ⓝ劣-13-144]

◇◇◇

周公瑾九島真言の密約を受けて、烈は計画を修正した[Ⓝ劣-13-143]。いわく、

①九校戦と同じ日に、たまたまパラサイドールの性能試験が行われていた、ということにする[Ⓝ劣-13-143]

②対大亜連合強硬派はマッチポンプによる世論操作を企んだ、ということにする。(強硬派は大亜連合方術士にパラサイドールの細工をさせ、選手に重い怪我を負わせたうえで、「大亜連合がこんな酷いことをしていた! やはり大亜連合は危険だ!!!」とメディアやSNSでギャンギャンわめく――というストーリー)[Ⓝ劣-13-143,管補,管推]

伝統派に使嗾された周公瑾は、強硬派に協力して九島家に方術士を送り込んだ、ということにする[Ⓝ劣-13-143]

を守るため、司波達也は必ず動く。彼がパラサイドールと戦うことになるのは間違いないことで、そうなれば風間も動かざるを得ない。少なくとも黙認するより他に無い[Ⓝ劣-13-145]

藤林響子が達也に送信者不明メールで情報をリークした[Ⓝ劣-13-]のは、おそらくは烈の指示でもあるのだろう[管推]

⑥おそらくどこかの段階で、九島家はこの陰謀に「気づき」、強硬派・伝統派・周公瑾の三者をまとめて粛清する流れに持って行くつもりだろう[Ⓝ劣-13-143・145,管推]。軍事刑務所や犯罪魔法師収監施設送りあたりか?

⑦陰謀を防げなかったという落ち度は残るが、九島家は被害者ポジションを獲得することができる[管推]。何より、若い魔法師の徴用を企んでいた強硬派を失脚させることができる。(九島家に敵対的な)伝統派も粛清できる[Ⓝ劣-13-340]

烈の計画は余りにも都合が良すぎる、かなり粗っぽいプランだが、それは重要なことではない。精緻な計画を練ることは重要ではない。重要なのは、(最終的に)相手より一手上回ることである[Ⓝ劣-13-143,管補]
政治や政局ってのは、こういう世界なんだろうなぁと思ったりした。

⑧しかし現実には、酒井の「自白」データが佐伯のもとに渡ってしまった。そこでは「酒井は九島家と談合し、九校戦を舞台としたパラサイドールの実験を行った」旨が語られていて、九島家は被害者どころか加害者側であることが暴露されていた[Ⓝ劣-13-341]

◇◇◇

なお当初のプランではおそらく、純粋にスティープルチェース・クロスカントリーの妨害役としてパラサイドールを使うつもりだったようだ。つまり、物理トラップとドールの攻撃に対応しつつゴールを目指す、という競技内容だったのだろう。本当なら軍の魔法師が妨害役を務めるのだが、国防軍にも余裕があるわけではないし、生徒の反撃で負傷するかもしれない。しかしパラサイドールを使えば、そうした心配もないし、魔法師の代わりとしての有用性も示せる。そんな考えのもとで、烈は「実験室から出して最初の運用試験を行うには格好の機会だ」と述べたのだろう[Ⓝ劣-13-29,管補,管推]

しかし周公瑾と九島真言の密約を受けて、達也に道化を演じさせる方針に変更されてしまった。おのれ周公瑾、おのれ九島真言。

九島真言

九島家の現当主である九島真言は、父・九島烈に対する劣等感、すなわち「自分の魔法力が父に遠く及ばない」というコンプレックスを抱いてきた。真言も、そして彼の子供たちも、客観的に見れば十分に強い魔法力を備えているのだが、真言は「十師族としては平凡」だと思っており、失望していた。この失望はやがて力に対する執着に変わり、真言の中に狂気が住み着いた。九島光宣が生まれたのは、真言がこのような妄念に囚われた末に実行した暴挙の結果である[Ⓝ劣-13-35]

真言が周の来訪について家内に緘口令を敷いた[Ⓝ劣-13-106]理由のひとつには、おそらく「先代に対するコンプレックス」もあるのだろう[管推]

伝統派

京都を中心とする地方の古式魔法師が宗派を超えて手を組んだ魔法結社である伝統派は、現代魔法に対し古式魔法の独自性を守ることを目的として掲げている。すなわち、自らのアイデンティティを堅持することを重視している。彼らは「自分たちを裏切った」第九研を敵視している古式魔法各流派の連合体であり、その敵意は「九」の数字付き、そしてその盟主たる九島家に向けられている[Ⓝ劣-13-104]

藤林家

藤林家は、忠誠術式がある限りパラサイドールの暴走は起こらないと知っている・・・・・[Ⓝ劣-13-282,管補]のに、響子を派遣して[Ⓝ劣-13-274]、達也にムーバル・スーツを渡させた[Ⓝ劣-13-278]。このことから、藤林家も達也を暴れさせたいと思っていることがわかる[管推]

今回の九島家の行動について、藤林家は本心では反対している[Ⓝ劣-13-275]
しかし藤林家は、古式魔法師の家系でありながら伝統派ではなく「九」の魔法師の側に立ってきたため、九島家に表立って反対することができない(してしまうと日本魔法界で孤立する)[Ⓝ劣-13-275]

以下は推測になるが、この一連の行動は、周が連れてきた方術士を真言が受け入れたことについては明確に反対している藤林家当主・長正[Ⓝ劣-13-276]の命令でもあるのだろう。
そもそも藤林家が伝統派ではなく「九」の側に立った理由は、他国の術者を国の懐深くに迎え入れる伝統派に対して危機感を懐いたため[Ⓝ劣-13-276,14-144]なので、ここは譲れないはずだ。

これは響子自身の考えとも合致していた[Ⓝ劣-13-276]から、響子も自らの意思で危ない橋を渡ったのだろう。達也に情報を出し渋っていたのは、テスト本番まで状況を引っ張り、烈と強硬派が見ている前でパラサイドールを破壊させることで、「この兵器は使えない」と認識させたかったのではないか[管推]

最後に、風間が響子を泳がせていた理由。

風間が佐伯から受けた命令は「待機」と「監視」だった[Ⓝ劣-13-70・72]が、八雲と風間の会話[Ⓝ劣-13-282∼286]を読む限り、(おそらく命令に反しない範囲ではあるが)風間も独断行動を取っている[管推]

具体的には、古式魔法師である風間が「パラサイドールが暴走しない可能性」について響子に訊かなかった。その可能性を当然知っているはずなのに、訊かなかった[Ⓝ劣-13-283]
これはつまり、風間の思惑も響子と同じで、達也を暴れさせたかったということだろう。

すでに書いたように、彼もまた「おこ」だったから、こういう行動をとったんじゃないかと思っている。

だとすれば、ムーバル・スーツは響子が無断で持ち出したのではなく、風間が許可したんやろなぁ。

〈スティープルチェース編Ⅲ〉の感想で右の画像のように書いたけど、(さすがにムーバル・スーツの無断持ち出しは無理じゃね?)と思っていたのでスッキリした。笑

〈スティープルチェース編〉の陰謀整理作業 おわり

とりあえず、分かる範囲で書いてみました。

合ってるかどうかは知らない。書くだけ書いてみたけど、複雑すぎるので間違いや矛盾点もありそう。

それでは今回はこの辺で!

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