精霊の眼は、イデアの「景色(形色)」を視る能力[Ⓝ劣-12-434,28-138]。
存在認識の視力[Ⓝ劣-4-280]。
イデアにアクセスし、イデア内の個々の存在(エイドス)を意識して見分ける(認識する)能力[Ⓝ劣-2-191,4-249]。
全ての物理的情報と魔法的情報を、五感で体験する以上の確かさで使用者にもたらす力[Ⓝ劣-31-86・87]。
厳密には魔法(知覚系魔法)ではなく異能であり、事によると『分解』以上に耳目を集めるもので[Ⓝ劣-4-248,Ⓕ来-ADW-095]、機密指定されてもおかしくはない技能である[Ⓝ劣-4-250]。
概要
現代魔法師は皆、程度の差こそあれ、「情報」を知覚する力、イデアにアクセスする能力(エイドス認識力)を持っている[Ⓝ劣-4-249,28-140・146,Ⓝ㊕-続追-27]。『精霊の眼』は、魔法師ならば誰もが持つこの知覚力を拡張した最上位バージョンとでも言うべきものである[Ⓝ劣-4-249,28-140・146,Ⓝ㊕-続追-27]。
魔法師を魔法師たらしめているこの情報知覚能力を高めていけば、最終的に『精霊の眼』へとたどり着く[Ⓝ劣-28-140]。
その意味で、あくまでも魔法技能の一部である[Ⓝ劣-28-146]。
とは言え、この拡張がもたらす効果は絶大である[Ⓝ劣-4-249,30-96]。
五感や、物理次元の感覚の拡張に過ぎない『透視』や、照準補助システムによって得られた情報によって魔法の照準を定めるのではなく、エイドスを認識して直接照準することができるため、『精霊の眼』に狙われて逃れられるものはほとんど存在しない[Ⓝ劣-4-249]。
逃れられるのは「存在しないもの」だけとされる[Ⓝ劣-4-249]。
名称の由来
『精霊の眼』という名称は、実は誤った翻訳である[Ⓝ劣-4-249]。
元々は「元素(象徴元素)を視る力」で『エレメンタル・サイト』と呼ばれていた[Ⓝ劣-4-249]。
ところが、最初の翻訳者が「エレメンタル」を「四大精霊」と勘違いし、そのまま『精霊の眼』として定着した[Ⓝ劣-4-249]。
間違いに気づいた者は大勢いたが、『精霊の眼』の語感が『元素視力』より魔法的だという理由で、修正されないまま放置された[Ⓝ劣-4-249・250]。
達也の『精霊の眼』
達也は、『分解』と『再成』の副産物として、『精霊の眼』を先天的に有している[Ⓝ劣-2-259]。逆説的だが、『分解』と『再成』を先天的に身に付けていた達也は、それを使いこなすための「眼」も与えられていた[Ⓝ㊕-続追-27]。
達也の「眼」は、構造情報と因果を読み取る眼である[Ⓝ劣-15-221]。
「何が材料で、どうやって作られているのか」「何が原因で、今の結果があるのか」という情報を読み取ることができる[Ⓝ劣-15-221]。
手掛かりさえあればどんなものでも「視」えるが、志向性(意志の指向性)を必要とし、「視」ようとしなければ、意思を向けなければ「視」えない[Ⓝ劣-25-74・75]。
何が、どのように見えているのか
イデアを通じた認識は、映像ではなく概念として流れ込んでくる[Ⓝ劣-3-292]。 達也が「視」ているものは、映像ではなく情報であり、想子情報体を映像で捉えているわけではない[Ⓝ劣-3-185,13-187]。たとえば人物の肉体の構造情報を「視」たときには、その情報が無意識領域で意識の理解しやすい記号に変換される[Ⓝ劣-13-187]。
透視や遠隔視のように映像を捉えるものではなく、視覚情報を含めたあらゆる物理的な情報と想子情報体によって構成される魔法的情報を認識する能力である[Ⓝ劣-31-86]。想子情報体の認識
達也の「眼」は、想子情報体を視て[Ⓝ劣-23-227]、想子情報体を解析する[Ⓝ劣-3-185]、「情報構造を読み取る力」[Ⓝ劣-4-32]である。想子情報体を読み解き、想子情報体に記述された内容を理解する力である[Ⓝ㊕-続追-27]。
エイドスや魔法式を一塊の情報体として捉えるだけでなく、そこに含まれている情報をも認識している[Ⓝ㊕-続追-27]。
起動式・魔法式の認識
達也は「視る」だけで魔法の構造が分かる。視るだけで起動式の記述内容を読み取り、魔法式を解析することができる[Ⓝ劣-3-302]。
達也が起動式を読み取る(意識して理解する)ことができるのは、起動式の「意味」を理解することができるためである[Ⓝ劣-1-109,2-259]。
物体のエイドスの認識
人体の構造を直接視認しているわけではない[Ⓝ劣-28-69]。
細胞や分子の一つ一つを顕微鏡的に見て理解することはできない。分子結合も直接認識してはいない[Ⓝ劣-28-69]。
物質の情報を記録している想子情報体を「視」て、その構造を理解しているだけである[Ⓝ劣-28-69]。
想子情報体に書き込まれている内容
達也の「眼」は、物質の構造と構成要素を認識する[Ⓝ劣-16-228・229]。
構成要素を認識するということは、それが何を素にしているのかを認識するということでもある[Ⓝ劣-16-228・229]。
構成要素に関する情報は、現に存在する物の中にあるため、その物の「由来」を知るために、時間的な情報遡及は必要ない[Ⓝ劣-16-228・229]。
時間流の遡及
達也の「眼」は、エイドスの変更履歴を、時の流れに逆らって縦覧できる[Ⓝ劣-28-146]。これは『再成』に不可欠な要素であり、達也は『再成』のために時を超える認識力を有していると言える[Ⓝ劣-28-147]。
因果律の認識
達也は、「縁」を辿って「情報」にたどり着くことができる[Ⓝ劣-28-140]。たとえば、自分や深雪を敵に狙われている場合には、その「縁」を辿っていくことで敵に関する情報を得ることができる[Ⓝ劣-23-276・277]。
概要
達也の「眼」は千里眼の類ではなく、知りたいものを無意識領域で自動的に選別して意識に投影してくれる便利な能力でもなく、万象を因果律に基づき意識的に取捨選択しなければ求める情報にたどり着かない異能である[Ⓝ劣-19-95]。手間はかかるが意識的に情報を選別する分、無意識任せの能力より確実性は上かもしれない。しかし、因果の系統樹を意識してたどって行かねばならない分、千里眼の類よりも多くのリソースを必要とするのも確かである[Ⓝ劣-19-95・96]。
因果律の世界
達也は因果律の連結強度で定義される「リレーション空間」を視ることができる[Ⓝ劣-10-283・284]。 「空間」と言ってもそういう次元があるのではなく、認識の枠組み、見え方の一種のことである[Ⓝ劣-10-284]。また「リレーション(関係・つながり)」と言っても、赤や黒の糸や鎖でつながっているということではなく、「因果関係が有る」という情報を読み出すことができるにすぎない[Ⓝ劣-10-284]。
達也の場合は、認識の焦点を当てた存在の背後に因果関係を持つ存在や事象が透けて見える[Ⓝ劣-10-284]。
しかし箱根テロ事件を経て、達也は限定的ではあるが「因果の連なりを俯瞰して視る力」を手に入れた。それまでは、無数に枝分かれする因果の系統樹を、三次元的なビジョンを順番に辿って行くことしかできなかったが、事件の際に情報流を数えきれないくらい何度も上り、下ったおかげである[Ⓝ劣-20-116]。
これにより、対象に撃ち込んだサイオンマーカーをすぐに見つけることができるようになった[Ⓝ劣-20-117]。
未来予知
原理的には、このやり方(因果関係の読み出し)で未来予知も可能だが、達也は(2096年2月時点では)まだ行えない。現在、および最長24時間の過去しか読み取ることはできない[Ⓝ劣-10-284]。
2097年2月時点でも、未来を視る技能は有していない[Ⓝ劣-18-302,19-35]。
ただし、深雪に関して不意に危機感を覚え、それが当たっていたケースがある[Ⓝ劣-18-301・302,19-35・36]。
索敵
(因果関係の読み出しは)索敵には非常に有効で、遠隔視の先天性スキルに匹敵するか、それ以上の範囲と精度で「敵」を識別することができる[Ⓝ劣-10-284]。
その他
達也は、普段からリレーション空間を観察しているわけではない。偶然という「突如発生する因果関係」が頻繁に作用する物質次元に身を置きながら、視野をリレーション空間に置いていると、すぐに怪我をしてしまう[Ⓝ劣-10-284]。
そのため、意識をそちらへ移すには、落ち着いた状況が必要となる[Ⓝ劣-10-284,20-208・209]。
深雪の監視
達也は、普段は無意識で深雪の周囲の因果律をチェックしている[Ⓝ劣-10-283・284]。無意識領域の一部を使って深雪の周囲を常時監視している。正確には、監視するように魔法をかけられている[Ⓝ劣-6-89]。
意識的に行うことで、さらに強化できる[Ⓝ劣-10-284]。
「眼」のリソース(キャパシティ)の半分を、24時間、深雪に迫る驚異の監視に割り当てている[Ⓝ劣-19-97,28-138,31-246]。
熟睡中も無意識領域で見守っており、深雪に危機が迫れば、どんな深い眠りにあっても、100%確実に即座に覚醒するシステムになっている[Ⓝ劣-19-97]。
チェックの対象は、深雪を害する可能性がある物質的な現象と魔法的な兆候である[Ⓝ劣-31-246]。
予知ではないので、空間的な距離を飛び越えて突如顕在化する遠隔魔法は直前まで察知できないこともある[Ⓝ劣-31-246]。
だが、物理的な空間を連続的に移動してくる物体や現象ならば、それが深雪に向かって移動を開始した時点でほぼ確実に把握できる[Ⓝ劣-31-246]。
達也が深雪に向けられる敵意を受動的にキャッチできるのは、そのように対象を絞り込んでいるからである[Ⓝ劣-25-75]。
それでも、実際に攻撃が発動するまで知覚できないこともある[Ⓝ劣-25-75]。
また、深雪の居場所は、「情報」に意識を向けるだけで分かる。「少し自分の内側に意識を向ける」だけで良く、何をしているのか把握するのも難しくはない[Ⓝ劣-17-93・94,22-154]。
対象の観測・捜索
『精霊の眼』では、位置情報を読み取ることで相手の実在を認識し、相手を実感することで位置情報を確定する[Ⓝ劣-31-86]。
ある種の循環定義のようにも思われるが、実際には2つの認識が同時に成立しているわけではない[Ⓝ劣-31-86]。
それゆえ、名前だけしか知らないような存在の位置を特定できる程、達也の『精霊の眼』は万能ではない[Ⓝ劣-31-87]。
また『仮装行列』のようにエイドスレベルで位置情報を偽装されると、「眼」を向けるべき正しい座標が入手できず、位置確定に失敗してしまう[Ⓝ劣-31-87]。
情報次元における「観測」
魔法が物理的距離に直接的には左右されないのと同様に、情報体次元を認識する知覚力にも物理的距離は直接の障碍とならない[Ⓝ劣-6-215]。 情報の世界で対象を特定できれば、どれだけ物理的に離れていても「視る」ことができる[Ⓝ劣-6-215]。また、情報次元には距離も広さもないがゆえに時間差なしに、リアルタイムの状況を観察できる[Ⓝ劣-28-145]。
ただし、手が届く場所にある物体・現象であっても、「そこにある」「そういうものがある」と分かっていなければ、情報次元では観測できない[Ⓝ劣-28-145]。
情報次元における「捜索」
事象と事象の関連性、情報的なつながりを辿って、何処にあるのか分からないもの、正体が判明していないものの情報に到達することも、原理的には不可能ではない[Ⓝ劣-28-145]。ただし、物理次元の事象は時々刻々変化し、情報もそれに伴い更新されていく。過去の情報を閲覧できない限り、情報的な関連性だけで所在不明の「情報」を探り当てることはできない[Ⓝ劣-28-145]。
映像経由で特定することも可能
例えば高々倍率の天体望遠鏡で月を見て月面着陸船(の残存物)を識別できれば、その着陸船の状態を把握することができる[Ⓝ劣-6-215]。
相模灘および鎮海軍港に向けて『質量爆散』を放ったときや、宗谷海峡に向けて『雲散霧消』を行使した際には、成層圏監視カメラや低高度衛星の映像を目視し、これにより対象を特定し、エイドスへアクセスし、敵艦や現場の状態を探った[Ⓝ劣-7-310・324・325,21-245]。このことについて、つかさは「そんな壊れた人間などいるはずがない」と考えている[Ⓝ劣-22-160]。
人間の認識力の広さには限りがあり、人が実感できる距離には限界がある。物理的に存在する距離という強固な現実を無視して、映像から得られた認識だけで情報次元の情報体に意識の焦点を合わせられるとしても、限度があるはずだからである[Ⓝ劣-22-160]。
マーキングした対象は特定可能
達也は、エイドスにマーキングを施した物体の情報は、情報次元で見失うことはない[Ⓝ劣-8-249・250]。物質次元における座標が明確でない場合は困難
2096年初頭の吸血鬼事件でパラサイトに遭遇したとき、達也は情報の次元の中で何処に位置しているかは視えていても、それが現実世界の何処に対応するのかが分からなかった[Ⓝ劣-10-107]。
これは、物質次元における座標が明確に定義されていないためだった。物質的な存在との関連性が酷く希薄で、魔法を発動する為だけに必要な、細い糸で辛うじてつながっている感じだった[Ⓝ劣-10-107]。
だがそこで、美月が「見」たことにより、曖昧だったパラサイトの座標が急にはっきりした[Ⓝ劣-10-113・114・116]。
不確定だったパラメーターに、パラサイトの属性情報に、いきなり具体的な数値が入力され、物質次元における存在が強まった[Ⓝ劣-10-116]。
美月が「見」たことで、パラサイトの属性情報が書き換えられた[Ⓝ劣-10-117]。
パラサイトが美月に近づくにつれて、座標情報の揺らぎが減少し、分布が収束した[Ⓝ劣-10-121]。
対象の捜索
達也は、自分と関連性が薄い存在を見つけ出すことは得意ではない[Ⓝ劣-19-34・35]。ターゲットと深い関連性のある物が残されていれば、それを手掛かりに情報を追い掛けていくことはできる[Ⓝ劣-19-35]。
ただし、そのためには魔法的なリソースの確保(深雪へ向けている知覚力の解放)が必要となる場合がある[Ⓝ劣-19-34・35・96・97]。
東京の狙撃手の場合
達也は2095年10月、魔法を使わない狙撃を受けた[Ⓝ劣-6-73∼75]。
達也はこのとき、自分を貫いた弾丸の情報体を探し出し、銃弾のエイドス変更履歴を読み出した[Ⓝ劣-6-75]。
銃弾に加えられた抵抗・風・重力などの情報群から狙撃時点の座標情報を選り分け、拾い出した[Ⓝ劣-6-75・76]。
そうやって銃弾の弾道の情報を遡り、発射時点における狙撃手の位置情報を見つけた[Ⓝ劣-6-76]。
そして、発射当時の狙撃手の情報を基点として狙撃手の情報を追い掛け、再び現在へと戻って現時点における座標を突き止めた[Ⓝ劣-6-76]。
周公瑾の場合
達也は、会ったことが無い周の写真だけを手掛かりにして、ターゲットの情報を取得することはできなかった(写真だけでは検索キーとして不十分だった)[Ⓝ劣-15-125]。
近江円磨の場合
近江円磨の場合には、近江の情報を探ることができた[Ⓝ劣-19-54]。
このケースでは、①時間的距離の近さ(魔法が発動してからすぐだった)、②空間的距離の近さ(魔法発動媒体が目の前にあった)、③因果的距離の近さ(達也自身が魔法の標的になった)、などの材料が揃っており、さらに④使われた術式そのものに関する情報も手元にあったため、近江本人の情報を追い掛けることができた[Ⓝ劣-19-54]。
このときは「SBを使役した」という情報を隠蔽した「隠蔽の痕跡」を追い掛け、近江の情報体にたどり着くことができた[Ⓝ劣-19-57・58]。
顧傑の場合
達也は一度顧傑を「視」てはいるものの、距離的に離れている上、因縁も大したものではなかった[Ⓝ劣-19-34・35]。
顧傑の弟子(周公瑾)と敵対したことも、真夜が襲われたことも、顧傑と達也の関連性を深めることにはならない[Ⓝ劣-19-34・35]。
その程度のことで因縁を作ってしまっていては、達也の視界は溢れかえる情報で塞がってしまう[Ⓝ劣-19-34・35]。
顧傑を「視認」したことは十分な手掛かりであり、新たな因果関係が無くても居場所を突き止めることはできる[Ⓝ劣-19-96]。
だが、たった一度「眼」にしただけの相手を追跡するためには、その標的に知覚を集中する、つまりリソースを確保する必要があり、深雪から「眼」を離す必要があった[Ⓝ劣-19-34・35・96・97]。
水波の場合
照準
達也は、偵察衛星や成層圏カメラから得られた情報を、視覚から得られた情報と同じように処理することができ、さらに「サード・アイ」を使用することで、何百キロも離れた場所へ魔法を届かせることができる[Ⓝ劣-7-310・314・324・325,21-245]。本当は「サード・アイ」のような遠距離照準補助CADが無くても、単純に航空映像や衛星映像を見るだけで、自力で照準できる[Ⓝ劣-31-189]。
また、対象の物体の移動速度がどれ程速くても問題にはならない。
情報そのものを照準するがゆえに、敵の座標情報がどれほど目まぐるしく変化しても、その値(敵のエイドス)自体が認識できていれば、照準を固定する障碍とはならない[Ⓝ劣-11-255]。
極超音速ミサイルに狙いを付ける場合でも、「極超音速ミサイル」という情報に照準を合わせるため、達也にとっては固定目標と変わらない[Ⓝ劣-31-247]。
『誓約』の解呪
『誓約』によって、達也は長らく魔法力を制限されていた。
しかし、2097年5月の解呪(完全解除)によって真の力を取り戻し、以前には難しかったほど深い情報にアクセスできるようになった。具体的には、肉体と精神をつなぐ想子情報体(幽体)の構造を「完全に」読み取り、その変更履歴を遡及できるようになった(以前は「概ねに」しか読み取れなかった)[Ⓝ劣-25-33・34]。
その他できること
できないこと
- 思考を読むことはできない[Ⓝ劣-31-86]。
- 達也は、霊子が形作る構造は「視」えない。霊子情報体である精神を視ることはできない[Ⓝ劣-23-227,28-69]。
- 注意深く「情報」の痕跡を残さないように仕上げられた工作員の素性を探ることは、少なくとも能力の100%を投入していない状態では難しい[Ⓝ劣-22-171]。 ※『誓約』解呪前
光宣の『精霊の眼』
九島光宣もまた、『精霊の眼』の持ち主である[Ⓝ劣-25-202]。達也とは違い、後天的に覚醒した[Ⓝ劣-25-75]。
人間だった頃から持っていた高い情報知覚能力を、パラサイト化によってさらにレベルアップさせ、『精霊の眼』へと至った[Ⓝ劣-28-140]。
以前からそう思わせる描写はなされており[Ⓝ劣-15-294]、達也自身も疑っていたらしい[Ⓝ劣-25-202]。
響子は「天眼通じみた能力」と評している[Ⓝ劣-25-76]。◇◇◇
光宣の「眼」の特徴について以下にまとめる。
受動的感受性が高い
光宣の「眼」は達也とは違い、受動的な感受性が高い。この点において、光宣の「眼」は、達也のそれを超えている[Ⓝ劣-25-74・75]。
光宣は特に意識を向けていなかったにも拘らず、達也とベゾブラゾフの激突を、伊豆から遠く離れた生駒でキャッチした。こういう受動的な知覚力は、達也の「眼」には無い[Ⓝ劣-28-146]。
強力な魔法の波動を放つ『トゥマーン・ボンバ』を感知するのはまだしも[Ⓝ劣-25-75]、「『トゥマーン・ボンバ』に達也が抗っていた」ことに気づき[Ⓝ劣-25-74]、さらに「現場に独立魔装大隊がいた」ことにまで気づいた[Ⓝ劣-25-76]。
この受動的知覚力の高さは、おそらく、光宣が得意とする『仮装行列』に由来する[Ⓝ劣-28-146]。
『仮装行列』は特定の誰かを対象とするのではなく、自分に向けられる「視線」の全てに対して効果を発揮しなければならない[Ⓝ劣-28-146]。
ある意味で、誰に見られても自分の情報を偽り続ける、受動的な魔法と言える[Ⓝ劣-28-146]。
つまり光宣は、『仮装行列』を行使するために受動的な知覚力を発達させた[Ⓝ劣-28-146・147]。
魔法式の読み取りができる
また、光宣は魔法式を読み取ることができる[Ⓝ劣-25-202]。
フラッシュ・キャストで『導電皮膜』を発動しようとした達也に対し、電気抵抗増大の魔法式を撃ち込み、定義破綻による無効化を引き起こした[Ⓝ劣-25-189]。
これは、「眼」がなければ難しいことである[Ⓝ劣-25-202]。
時間流の遡行はできない
達也のように時間流を遡って情報を閲覧することはできない[Ⓝ劣-28-145]。
「眼」に対抗する方法(のヒント)
- 八雲いわく、『精霊の眼』を誤魔化すには、気配を消すのではなく、気配を偽らなければならない[Ⓝ劣-3-53]。
- 八雲いわく、『精霊の眼』を逆手に取る手段もある。「この世のものならざるモノ」の目を誤魔化す『纏衣の逃げ水』はその一つである[Ⓝ劣-9-188]。
- 『仮装行列』は、『精霊の眼』に対抗する有効な手段である。リーナはこの魔法で達也の『部分分解』の照準を外した[Ⓝ劣-9-222・233]。
- 達也が「眼」(情報の次元からの視界)で『接触型術式解体』を発動している十三束を見たときには、濃い雲に覆われて輪郭がはっきりしない十三束の本体が映っていた。濃密な雲は十三束の身体の情報体を厚く覆う想子の鎧である[Ⓝ劣-12-423・424]。
- 京都市街を「眼」で見た際には、人々と土地から立ち上る想子光で街中に薄らと靄がかかっているように見えていた。魔法師ならば濃淡こそあれ、同じように見える[Ⓝ劣-15-124]。
このような場合は、想子の濃い所に焦点を絞って「視」ても、目的のデータを見つけるまでかなりの時間を要する[Ⓝ劣-15-124]らしい。 - 「眼」で情報を読み取る場合、想子波の放出は邪魔になる[Ⓝ劣-15-248]。
また、怪我の多い人体のエイドスには欠落が多い[Ⓝ劣-15-248]。
達也が情報取得の対象に、最速で冬眠状態に落とされた敵を選んだ[Ⓝ劣-15-248]のは、気絶していて想子波の放出が少なく、怪我も少ないのでエイドスの欠落も少なく、情報を読み取るのに適していたためだと考えられる[管推]。
関連技術・応用技術
- 起動式の読み取り
- 魔法式の読み取り・解析
- エイドスの直接照準
- 言葉の読み取り
- エイドス変更履歴の遡及
- 心の中で記号化された座標変数(イメージ)をサイオン信号化して身体的な接触により遣り取りする魔法技術[Ⓝ劣-6-257・258,7-108,11-301・302,Ⓝ㊕-続追-57∼62]
- 相手の魔法式を読み取り、定義破綻による魔法の無効化につなげる技術
備考
-
- 達也に「視」られた真由美は、「自分の全てを見られているような錯覚」「自分という人間を構成する全要素が読み取られ、さらけ出されるような、得体の知れない不安感をもたらす視線」を感じている[Ⓝ劣-3-362]。
- 幹比古も、「相変わらず自分の全てを見透かすような視線」に居心地の悪さを懐いている[Ⓝ劣-SS-65]。
- エイミィは「自分の全てを見透すような眼差し」「自分を構成するすべての要素を見られているような眼差し」「魔法演算領域の特性に留まらず、自分の奥底、自分の本質まで分析されているような眼差し」「俎に載せられてこれからどう料理しようかと吟味されているような感覚」だと感じている[Ⓝ劣-SS-104・105]。
- アークトゥルスは、「方向性の無い視線」「『何処から』という要素がまるで見出せない、『あらゆる方向から』ですらない視線」「ただ、見られている」「まるで神か悪魔に見つめられているよう」と感じている[Ⓝ劣-26-294]。
- 水波は「全てを見通すような視線」と感じている[Ⓝ劣-28-59]。
- 泉美は「私たちとは根本的に異なる世界をご覧になっている」「私たちと同じ場所にいながら違う世界を生きているように感じる」と答えている[Ⓝ劣-17-47]。
- 顧傑は、近江の情報に迫る達也の「視線」について、「術が返ってくる気配」「情報次元に対する一瞬の観測」「SB魔法を放っていた経路を逆に伝って恐ろしい勢いで迫ってくる何者かの意思」「自分に対する敵意」と表現している[Ⓝ劣-19-59・60]。
- 達也が「眼」のリソースを全て顧傑に向けた際には、顧傑は「突き刺すような視線」に突如晒されて眠りから飛び起き、「何処から見られているのか分からない、この世の何処でもない、あの世から見られているような視線」と感じている[Ⓝ劣-19-105・106]。
- ジェームズは「こっちの精神を貫き心臓まで届くような、死神の如きあの視線」と評している[Ⓝ劣-20-112]。
- 『精霊の眼』は想子レーダーに感知される類のものではないが、その異能を感知できる五感外知覚力の持ち主がいる可能性はある[Ⓝ劣-13-187]。
- 山中いわく、「『精霊の眼』は使ったからといって、そんじょそこらの魔法師が端から見ているだけで、何をしているのか分かるという類のものではない」[Ⓝ劣-4-248]。
- 知覚系魔法の視線を向けられた魔法師は、その視線に込められている魔法力を知覚する。技術力に圧倒的な差があれば、相手に気づかれることなく監視することが可能だが、どんな魔法を使ってもリスクはゼロにはならない。達也の『精霊の眼』ですら、相手が同じ技術を持っていれば観測者の存在を察知することができる[Ⓝ劣-21-116]。
「観測」された対象には、「観測された」という情報が加わる。それはほんの微かな変化だが、同じ『精霊の眼』の能力を持つ者ならば、「眼」を向けられた時に、そうと気づく[Ⓝ劣-28-140・141]。 - 深雪は、達也の『精霊の眼』を封じることができる。ただしその場合は魔法技能を喪失する[Ⓝ劣-13-253]。
これはおそらく、達也を縛る『誓約』への魔法力を現状(50%)から100%にまで高めることで、達也の全能力を封じるとともに、深雪の魔法力がゼロになる(魔法技能を喪う)ものと推測する[管推]。 - 言葉も情報体としてイデアに記録されるため、声も読み取ることができる[Ⓝ劣-13-309,31-86・87]。
- 『精霊の眼』で情報体を観測している最中に、観測している情報体に大幅な変更が加えられた場合、「眼」はダメージを被ってしまうため、接続を切る必要がある[Ⓝ劣-19-58]。
- 視覚情報と聴覚情報をフィルタリングして認識することができる[Ⓝ劣-32-207]。
- 『精霊の眼』で情報次元を観測する際には、時間感覚が引き延ばされる[Ⓝ㊕-続追-19]。
- 達也の魔法開発効率が異常に高いのは、各工程の魔法式の動作状況や、実験の各ステップを、「眼」で直接観察しながらチェックを進めているためである[Ⓝ劣-6-278,12-269]。
- 肉眼を働かせながらでも情報次元を「視る」ことはできるが、じっくり観察する場合は五感の刺激が少ない方が(目を閉じた方が)やりやすい[Ⓝ劣-20-208]。
- 達也の超知覚は、五感を通じて取得する信号を遥かに上回る情報量を読み取ることができる。達也にとって肉眼で得られる情報は「光と影」に過ぎない[Ⓝ劣-19-100]。