アストラル・ディスパージョンは、霊子情報体支持構造を『分解』する魔法。
精神体をこの世界(物質次元および情報次元)に存在できなくする魔法。
パラサイト等の霊子情報体を、この世界から完全に駆逐する魔法[Ⓝ劣-29-2・167,31-218]。
概要
精神体(霊子情報体)がこの世界に存在し、またこの世界の事象に影響を及ぼすためには、世界へのアクセス媒体(「足場」となる想子構造体)を必要とする。これを破壊すれば、その精神体はこの世界に留まることができず、この世界から完全に切り離され追放される[Ⓝ劣-29-2・167,30-95・97]。『アストラル・ディスパージョン』は、精神体そのものを滅ぼす魔法ではないが、この世界に存在できなくなるということは、この世界に生きる者の視点からすれば死ぬということに等しく、その意味で「精神体を殺害する魔法」と言える[Ⓝ劣-29-167,30-97]。
開発の経緯
アークトゥルスとの戦い
2097年7月8日、司波達也はアレクサンダー・アークトゥルスの幽体と交戦した。
非常に頑丈な幽体を相手に達也は苦戦していたが、戦闘中に「そもそも、精神体に分解魔法が通用しないというのは正しいのか」という疑問を抱いた[Ⓝ劣-28-69]。
考えを突き詰めていく中で、「精神体がこの世界に存在し干渉するためには想子構造体を必要とする」ことに気づき、「その足場を分解すれば良いのではないか?」という考えを得た[Ⓝ劣-28-70∼72]。
そしてアークトゥルスの幽体を『精霊の眼』で調べていき、 「幽体離脱」の術式を維持するためのチャネルを発見した[Ⓝ劣-28-73・74]。
想子構造体であるこのチャネルを『分解』してみたところ、幽体は動きを止め、想子情報体の活動も観測できなくなった。また幽体を構成する想子の密度が低下し始め、10秒後には幽体が虚空に吸い込まれるかのように消え去った(精神体が自身の肉体に追い返された)[Ⓝ劣-28-75∼77]。
死霊との戦い
2097年7月12日、司波達也は藤林長正と交戦した。
その戦いの終盤で、長正は『蹟兵八陣』に使われている死霊を利用し、達也の足止めを図った[Ⓝ劣-29-165]。
そこで達也は、死霊をこの世界に存在させている「足場」を見つけることに決め、これに成功した[Ⓝ劣-29-166]。
具体的には、①「死霊が自分という事象に干渉することによって発生しているはずの想子情報」へと『眼』を凝らし、続いて②「自分の精神に干渉している」という情報と「自分の精神に干渉している霊子情報体」という情報を「世界」の記録から見つけ出し、最後に③「自分というこの世界の一部分を成す事象に干渉可能な形でこの世界に霊子情報体を存在させている構造(=霊子情報体支持構造)」を読み取った[Ⓝ劣-29-166]。
この想子構造体を『分解』することで、達也は死霊を世界から追放することに成功した。こうして『アストラル・ディスパージョン』は完成に近づいた[Ⓝ劣-29-166・167・196]。
パラサイトを相手とする実践
2097年7月23日、司波達也はケヴィン・アンタレスおよびエリヤ・サルガスという2体のパラサイトと交戦した。
達也は2人の肉体を『分解』したのち、残ったパラサイト本体の霊子情報体支持構造を見つけ出し、『アストラル・ディスパージョン』を放った[Ⓝ劣-30-318]。
この魔法は無事成功し[Ⓝ劣-30-318]、パラサイトを葬る魔法は完成した。
「足場」の見つけ方
霊子情報体支持構造は、パラサイトの場合には「霊子情報体を包んでいる、ゼリーのような不定形の想子塊」の中に埋もれている[Ⓝ劣-30-318]。 司波達也はこれを見つけるために、精神体の活動に伴う情報の変動を観測し、そこから逆算的に「足場」を把握した(『精霊の眼』による間接的な構造読み取り)[Ⓝ劣-29-2,30-318]。これは「霊子情報体をこの世界に存在させている」という情報を元にして、その構造を間接的に読み取るものである[Ⓝ劣-30-318]。
この技術は、達也が九島光宣との遠隔戦で使った『間接的術式解散』と同様の技術であると思われる[Ⓝ劣-28-147∼149,管推]。
その他
- パラサイトに対して『アストラル・ディスパージョン』を使う際、司波達也は「トライデント」を使わない。これは、パラサイトは物質次元に存在せず、物質的な存在と紐付けされていないために、CADの照準補助機能がかえって邪魔になるためである[Ⓝ劣-31-217]。
- 『アストラル・ディスパージョン』は、間接的にではあるが精神に干渉する魔法である[Ⓝ劣-31-218]。
- 『アストラル・ディスパージョン』を向けられた九島光宣は、初見であるにも関わらず、「パラサイトを葬る魔法」「この世界からパラサイトを消し去る魔法」という所まで見抜いている[Ⓝ劣-32-219]。
- アレクサンダー・アークトゥルスの幽体は、「幽体離脱」の術式を維持するためのチャネルを破壊されたとき、自身の肉体に追い返された。これはパラサイトの場合とは異なっている。したがって、このときアークトゥルスはパラサイトでなくなっていた(人間に戻っていた)可能性がある[Ⓝ劣-28-77・86]。
- 『幽体離脱』の術式を維持するためのチャネルに対する『分解』は、「幽体」という情報体の中に存在している「チャネル」という情報体を対象とするものである。これは『術式解散』(「エイドス」という情報体に伴う「魔法式」という情報体を対象とする分解魔法)に近いものがある[Ⓝ劣-28-75]。
- パラサイトが霊子情報体支持構造を『分解』され、この世界から「追放」されるとき、「不可視の渦」が現れる。パラサイトは、この渦に吞み込まれるようにして消え失せる[Ⓝ劣-31-211]。
司波達也はこの渦について「パラサイトが元々存在していた世界に通じる次元の通路ではないか」と考えている[Ⓝ劣-31-217・218]。