まず、前回の振り返りです。
魔法科世界をわかりやすく解釈するため、以下のように置き換えて対比することにしました。
図示すると、次のようになります。
作中と現実のそれぞれにおいて、これらの次元/空間は「情報」「意思」などのキーワードによって、似たような形で結びつけることができるのではないかと考えています。
この対比に致命的な問題がなければ、魔法科世界における魔法や、サイオンとプシオン、エイドスや精霊、世界の修復力やエネルギー相殺法則など、理解しがたい様々な要素を、別の言葉で置き換えて解釈できるかもしれません。
そこで今回は、この対比について検証してみます。
情報体次元⇔物質体次元
まず、情報体次元/インターネット空間と、物質体次元/仮想空間の間の関係を確認します。
情報の存在場所
「情報」は、魔法科世界では情報体次元に存在します。仮想空間の場合は、情報はインターネット空間(サーバー)に存在することになるでしょう。
この点では、対比関係は崩れないと思います。
情報の記録
続いて、情報の記録について考えてみます。
プレイヤーの行動やコミュニケーションによって生じる情報
魔法科世界では、物質体次元で生じる現象には情報が伴い、これは情報体次元に記録されます。
一方、仮想空間でプレイヤーがとった行動やコミュニケーションなどは、おそらく電気信号によって情報化され、インターネット空間に記録されるでしょう。これは魔法科世界と同様です。
プレイヤーが発した言葉も、インターネット空間に記録され、ログとして残すことはできるでしょう。これも魔法科世界と一致します(発した言葉はイデアに情報として刻まれる)。
プレイヤーの思考
プレイヤーが脳内で考えただけのことはどうなるでしょうか。
これは技術力や仮想空間へのアクセス方法などによると思いますが、僕は「思考内容がインターネット空間に記録されることはないのではないか」と考えています。
技術的に可能であったとしても、プライバシーを守るためにはそうせざるを得ないでしょうし、そもそも脳内でボンヤリと考えていることも含めた全ての思考を取り出し、言語化・記録できるかと言うと、かなり難しいように感じます。
そうであれば、これも魔法科世界と一致します(純粋な思考はイデアに情報を刻まない)。
◇◇◇
ここで少し興味深いのは、魔法科世界において「思考」がイデアに情報を刻まない、すなわち想子情報体を形成しないということですね。対比に合わせて言い換えれば、プレイヤーの思考は電気信号に変換されず、インターネット空間上に記録を残さないということになります。
なぜ「思考」がイデアに刻まれないのか。佐島先生はどのように考え、そのように設定したのか。
この疑問に対するひとつの解釈を導き出せればいいなと思っています。
◇◇◇
これに関連して、九島光宣は「人間の認識が想子情報体を形成する」と述べています。
これは一見すると「思考はイデアに刻まれない」ことと矛盾するようにも感じられますが、作品全体を眺めた結果、「認識」と「思考」はおそらく別物だろう、と僕は感じています。
現段階では、この違いについて、僕は言葉ではっきり説明できません。これについても、この対比チャレンジで言語化できたらいいなと思っています。
自然現象
非常に興味深いのが自然現象です。
仮想空間の場合は、プレイヤーの行動による現象、たとえば火を燃やすとか、団扇を仰いで風を起こすとか、具現化した現象の情報は、仮想空間側からインターネット空間に記録されることになると思います。
これは魔法科世界も同じです。風が吹いた、紙が燃えたなどの情報は、情報体次元に刻まれますから、まったく同じです。
しかし仮想空間では、「今日は一日中晴れ」「午後から雨」などのように、プログラム側で天候を設定・操作することもあるでしょう。これはインターネット空間側からの仮想空間への干渉(情報反映)であり、一見すると魔法科世界とズレがあるように思われます。
しかし、これを「ズレ」と断定して良いかどうかは難しいところです。
魔法科世界では、水の大循環を司る「竜神」のような大規模独立情報体が存在し、彼らが天候に干渉している可能性があります。また、ごくまれに「魔神」という強力なSBが自然発生し、事象に干渉することもあるようです。
これは、情報体次元側からの物質体次元への干渉です。先に挙げたインターネット空間側からの仮想空間への干渉と、同じもののように見えます。
これについて少し掘り下げてみると、精霊・魔神・神霊などのSBは「自然現象を動かすプログラム」と解釈できそうです。
これは非常に興味深い一致です。いずれ考えてみたいと思います。
情報の反映
魔法科世界の魔法は、情報体次元に記録されている情報を書き換えることで、物質体次元における現象を一時的に書き換える技術です。
仮想空間だとどうなるかは、考えるまでもないでしょう。インターネット空間に記録されている情報を書き換えれば、たとえば「突風が吹く」などと書き込めば、それは当然仮想空間に反映されるはずです。
ただ、司波達也の『部分分解』などのように、プレイヤーの身体に穴を空けたりすることはできるのでしょうか? その場合、現実世界の身体にはどのような影響が出るのでしょうか? ダメージによって仮想空間で死亡した場合、現実世界ではどうなるのでしょうか?
このあたりは難しそうですね。別途考察する必要がありそうです。
物質体次元⇔精神体次元
では次に、物質体次元/仮想空間と、精神体次元/現実世界の間の関係を確認します。
対比の前提:精神と実体
ここでは、作中における「精神」を、現実における実体(人間)と対比させています。
魔法科世界では、精神の生み出した「意思」が想子波で発信され、大脳がこれを受信します。この考え方に合わせるならば、物質体次元に対する精神体次元は、仮想空間に対する現実世界と考えるのが自然でしょう。
※後で確認するメモ:精神の発する想子波=「意思」だったかどうか?
なお、厳密に言えば、発想の順序は逆だったのですが。
まず、情報体次元=インターネット空間という大前提がありました。これが一番最初の気づきです。原作でも、しょっちゅう似たような描かれ方をされています。
そのうえで、インターネット空間の情報書き換えによって事象を変化させ得る世界とはどんなものか?と考えたときに、「それは仮想空間だろう」と考えました。
そのうえで、仮想空間に「意思」を伝え得る世界はどこか?と考え、それはもちろん「現実世界だろう」となったわけです。
意思の伝達
繰り返しになりますが、簡単に。
魔法科世界では、精神体次元を漂う精神が「意思」を想子波として発信し(要確認)、物質体次元にある大脳がこれを受信します。
対して、仮想空間にいるプレイヤーの意思がどこから来るかと言えば、それはもちろん現実世界です。
今回の対比はこれを前提にしたものなので、ここの関係は当然矛盾しません。
五感情報の伝達
魔法科世界では、物質体次元における五感の情報は、精神に送信されます。
では、仮想空間ではどうなるでしょう。フルダイブしているプレイヤーの感覚は、どのように扱われるのでしょうか。プレイヤーが「痛い」と感じたとき、それは電気信号が生み出した幻の痛みなのでしょうか。それとも、現実の肉体が実際に「痛い」と感じるのでしょうか。
……かなり難しい話題ですね。哲学的です。
これについては結論が出ないでしょうから、ひとまず魔法科世界の設定に合わせて考えておくことにします。つまり「プレイヤーの感覚は電気信号で肉体に送信され、肉体(大脳)が痛みを実際に感じる」ものと定義します。
これはあまり良くないやり方かもしれませんが、対比作業の目的は「解釈」なので、この定義で話を進めた結果として、魔法などの解釈ができるのであれば、それで問題ないでしょう。
矛盾や反例が出て来次第、見直すこととしましょう。
アストラル体
さきほど、「幻の痛み」というワードが出てきました。
実は作中では、同様のものがしばしば出て来ます(肉体に影響を及ぼす「錯覚」)。
例として、以下のようなものがあります。
- 幻衝〈ファントム・ブロウ〉
幻の痛みを感じさせる無系統魔法。司波達也など、多くの魔法師が使用する。 - 遠当て
巻雲や若宮刃鉄が使う「遠当て」は五感に作用し、幻のダメージを与える。 - 「想子による肉体制御」の強制解除
この技術を使用している者が高圧の想子流を浴びせられると、肉体のコントロールを失う。
USNA軍の戦闘員や矢車侍郎などがこれを経験している。 - 想子波の合成
強力な想子波を浴びると、身体が「酔った」と勘違いする。 - 「切陰」・「突陰」
千葉エリカや千葉修次が使うこれらの技は、「斬られた」「突かれた」と錯覚させることでダメージを与える。命を奪うこともできる。
※3つ目については「錯覚」に該当するか、少し怪しい部分があるのですが、念のために含めておきました。
こうした「錯覚」には、アストラル体(魄)が関係しているようです。アストラル体が「錯覚」を感じ、その情報が精神に送信されるものと思われます。
この点を重ね合わせて考えてみると、これらの錯覚に類するものは、「プレイヤーの感覚が電気信号化され、現実世界の肉体に送信されたもの」と捉えることもできそうです。
これも興味深いテーマなので、いずれ考察してみます。
想子の足場と想子波
想子の足場
魔法科世界では、精神が物質体次元にアクセスするためには「想子構造体の足場」が必要です(霊子情報体支持構造)。これがなければ、精神体は事象に干渉できません。
現実世界と仮想空間をつなぐものは、インターネット回線(電気信号)でしょう。電気信号で構築される通路。これが「足場」に相当するものと言えそうです。
想子波
魔法科世界においては、精神と肉体は互いに想子波を受発信しています。これはおそらく「足場」を通じて移動しているのではないか、と僕は思っています。足場の中の通路を想子波が行き来している、ということです。
現実世界と仮想空間ならばどうなるでしょう。回線を通じて行き来しているものは、いったい何でしょうか。
フルダイブ型と言うと「HMDを被って意識を仮想空間に移す」というイメージなのですが、このとき、現実世界の身体と仮想空間内のプレイヤーとをつないでいるものは、一体何なのでしょうか。
電気信号化によって、意識は全て仮想空間に移るのでしょうか。それとも、意識は現実世界の側にあるのでしょうか。あるいは、意識が双方に分身していて、両方の意識が混在するのでしょうか。
ここはもう分からないので決め打ちです。現実世界と仮想空間は「電気信号化された意識の糸」でつながっている、と定義することにして、これを想子波に相当するものと解釈しましょう。
反例や解釈の不具合が出た場合には、あらためて検討します。
情報体次元⇔精神体次元
最後に、情報体次元/インターネット空間と、精神体次元/現実世界の間の関係を確認します。
この2者間については作中情報が少なく、対比は少し困難があります。
想子の足場と事象干渉力
「足場」についての確認
精神は、物質体次元と同様に、情報体次元にも直接アクセスすることはできません。司波達也は、アレクサンダー・アークトゥルスとの戦いでそれを見出しました。このとき、肉体を持つ魔法師の場合はゲートから魔法式を投射しますが、幽体の場合はこのチャネルは使用されないことが分かりました。
また、パラサイトは常に想子の外皮を纏っており、これを失うと事象に干渉する力を失うことも分かっています。
以上から、次の3つの事柄が言えます。
- 肉体を持つ魔法師の精神は肉体と交信し、ゲートを通じて情報体次元に干渉する。
- 肉体を持たない魔法師の精神は、幽体を通じて情報体次元に干渉する。
- パラサイトは、想子の外皮によって情報体次元に干渉する。
これらが「足場」に相当するものと思われます。
「足場」について対比
では、現実世界とインターネット空間で「足場」に当てはまるものは何でしょうか。
これは、インターネット回線(電気信号)、およびPCやスマホなどのデバイスでしょう。他に思い当たりません。
電気信号やデバイスは、ゲートや幽体、外皮に相当するものということになります。
事象干渉力について
魔法科世界では、精神が魔法の対象に事象干渉力を送り込みます。
では、現実世界とインターネット空間において「事象干渉力」に相当するものは、一体何でしょうか。
……これも難しいですね。
候補としては、「インターネット空間に情報を記録しようという能動的な意思」でしょうか。「ツイートしよう」とか「ブログを書こう」とか、そういう「能動的な意思」だけが、インターネット空間の情報を書き換えることができる、という。
前述した「意識の糸」のような直接的なものではなく、かなり間接的なつながりのように思えます。対比としてはあまり上手くありません。
能動的な意思
「能動的な意思」と言えば、九島光宣が言っていたことと全く同じですね。「人の能動的な精神作用が想子情報体を作り出す」。
ブログを書こう、という「能動的な精神作用が、インターネット空間の情報を書き換える」。
よく似ています。これも要考察ですね。
情報体次元からの情報取得?
現実世界の人々は、ネットから情報を入手します。
では、魔法科世界ではどうなるのでしょうか。精神は、情報体次元から何を入手しているのでしょうか。
作中では情報体次元と精神体次元のつながりについての言及がほとんど無く、これについてははっきりしません。
情報不足なので、これは保留とします。
第4の次元:精神と背中合わせの世界
魔法科世界では、情報体次元・物質体次元・精神体次元の他に、もう一つ「次元」があると考えられます。
作中で、九重八雲は以下のように述べています。
「僕は、人型の妖魔も動物型の妖怪も、情報生命体である妖霊がこの世の生物を変質させたモノじゃないかと考えている。そして、物理現象に由来する精霊がこの世界と背中合わせの影絵の世界を漂っているように、精神現象に由来する妖霊は精神世界と背中合わせの写し絵の世界からやって来るんじゃないかと思うんだ」
九重八雲;電撃文庫『魔法科高校の劣等生』9巻193P
八雲のこのセリフは非常に重要です。
「この世界」は、物質体次元のことです。
「影絵の世界」は、情報体次元のことです。
「精神世界」は、精神体次元のことでしょう。
そして最後の「精神世界と背中合わせの写し絵の世界」。これが重要です。
物質体次元に対応する情報体次元のように、精神体次元に対応する「写し絵の世界」。
これがどのような世界なのかは全く不明ですが、もし実在するならば、その対比も考える必要があります。
精神体次元=現実世界に対比させたので、この第4の世界は、僕たちが暮らす現実世界に対する「精神世界」と見るべきでしょう。
この考えを補強してくれる文面が、原作19巻のあとがきで記述されています。
ちなみに個人的な願望としては、精神は脳内の電気信号が生み出すものではなく魂として存在してほしいと思っています。
佐島勤;電撃文庫『魔法科高校の劣等生』19巻335P
佐島先生は、「精神は魂として存在してほしい」と思っているわけです。八雲のセリフは、この思いの表れなのかもしれません。
そうだとすれば、八雲の言う「写し絵の世界」は戯言ではなく、きっと設定中に実在するのだと思います。
今回の対比において、精神体次元=現実世界とたので、「写し絵の世界」=現実の魂(精神)の世界、という対比になります。
つまり、現実世界に生きている人間の魂が人間の肉体と交信し、人間の肉体が仮想現実・インターネット空間と交信しているという構図になります。
この世界観は、魔法科世界の設定にさらなる深みを加えてくれそうです。
「写し絵の世界」が、作中で今後どのように登場するのかは分かりません。ひょっとしたら余剰次元理論で登場した異次元のことかもしれませんし、違うかもしれませんが、何にせよ展開が楽しみです。
まとめ
少々長くなってしまいましたので、ここでいったん区切りとします。
こうやって考えてみると、定義がかなり多いですね。矛盾も多々出てきそうだなと感じています。
まぁ、しばらくはこの線で「魔法の対比理解」にチャレンジしてみようと思います。