エネルギー相殺法則【えねるぎーそうさいほうそく】は、魔法学上の仮説。
ある魔法現象において、事後的にエネルギー収支のつじつまを合わせようとする、エネルギー収支をなるべくゼロにしようとする法則[Ⓝ㊕続追-54]。
魔法現象は、通常の物理現象のように予めエネルギーを用意しておいて、それを消費することで起こるものではない。事前に他のエネルギーを犠牲にすることなく、事象改変に合わせてエネルギーが変化し[Ⓝキ-2-179,管注]、これが事後的に相殺されるのである[管推]。
通常の物理現象では、たとえば水を温めるときには「熱」を加える。この「熱」は、予め用意された「電気」というエネルギーや、「ガス」というエネルギー保存物質が、「熱」というエネルギーに形態を変えたもの、すなわち「他のエネルギーを犠牲にした」ものである。
それに対して魔法では、そのような準備ナシに、本当の意味でエネルギーが「増大」し、加熱という現象が起こる。このとき不足分のエネルギーが「供給」されるが、これは事後的に起こる現象である。
『気象条件が魔法に与える影響を調べる実験』
かつて、『気象条件が魔法に与える影響を調べる実験』が行われた。この実験では、二酸化炭素を凍らせてドライアイスに変え、これを高速移動させる魔法(おそらくドライ・ブリザードのような魔法)を用いて、気温と弾速の関係について調べた[Ⓝ㊕続追-53]。
得られた結果は、「気温とドライアイスの速度(弾速)には有意な負の相関関係がある」ということだった[Ⓝ㊕続追-53]。
この結果から、科学者らは「高温環境下の方がドライアイスの速度が高かったのは、凝結させる為に奪い取ったエネルギーが運動エネルギーに変換されているからだ」と考えた[Ⓝ㊕続追-53]。
この実験で使われた魔法には、エネルギーを変換するプロセスは組み込まれていないし、そのようなプロセスも発生していない(観測されていない)。ただ事後的に、熱エネルギーの減少と運動エネルギーの増加に相関関係が観測されただけである[Ⓝ㊕続追-54,管補]。
エネルギー変換のプロセスが無いにもかかわらずこのような現象が観測されたという事実から、「相殺法則」とでも呼ぶべき、前述のようなエネルギー収支調整システムが存在するのではないか、と考えられている[Ⓝ㊕続追-54,管補]。
ニブルヘイムの練習と火山の噴火
2093年1月、司波達也と司波深雪は巳焼島でニブルヘイムの練習をしていた。その際、長らく落ち着いていた噴火が発生しそうになった[Ⓝ㊕続追-49]。
これについて達也は、「相殺法則」をふまえて以下のように考察している。
- ニブルヘイムの連発によって冷気が無秩序に撒き散らされ、熱エネルギーの損失が起こった。これを「相殺」するシステムがあるとすれば、どこからか損失分が補填される[Ⓝ㊕続追-54]。
- 噴火が起きれば、局所的な熱エネルギーの欠損が補われる。しかしこれでは補填どころか、過剰にプラスになるように見える[Ⓝ㊕続追-54]。
- 一方、噴火が起こったからといって地球の持つエネルギーが増加するわけではない。熱エネルギーだけでなく全てのエネルギーを考慮すれば、増加も減少もしない。局所的に消費された熱エネルギーが補填されるだけである[Ⓝ㊕続追-54・55]。
- 局所的な調節こそが、「相殺法則」の正体かもしれない(『現象の局所的調節仮説』)[Ⓝ㊕続追-55]。
噴火を未然に防いだのち、達也はニブルヘイムの起動式を書き換えた。この起動式では、エネルギー収支の不均衡を緩和する仕組みを作るために、ニブルヘイムの終了段階に気体分子の運動速度のみを元に戻すプロセスを追加した[Ⓝ㊕続追-69]。
これが功を奏したのか、それまでは失敗することも多かったニブルヘイムが上手くいくようになったことは確かな事実である[Ⓝ㊕続追-69,管推]。
ただし、「深雪の技量が上がっただけ」という可能性もある[管補]。
「現状維持式」と相殺法則
一般に普及している魔法式には、改変を意図しない要素について現状を維持する式が必ず組み込まれている[Ⓝ劣-3-316]。
・状態維持の式を組み込まずに物体を加速した場合、加速された物体は冷却される[Ⓝ劣-3-316]。
……加速された物体の持つ熱エネルギーが事後的に奪われる[管推]。
・運動維持の式を組み込まずに運動中の物体を加熱した場合、加熱された物体の運動速度は低下する[Ⓝ劣-3-316]。
……加熱された物体の持つ運動エネルギーが事後的に奪われる[管推]。
これらの「現状維持式」は、相殺法則を考慮したものかもしれない[管想]。
関連事項
エネルギー保存則と相殺法則
・エネルギー保存則を破らないように組まれた魔法は、少ない干渉力で実行できる[Ⓝ劣-3-316]。
・また、エネルギーの総収支がゼロに近い魔法の方が、発動に失敗しにくい傾向がある[Ⓝ劣-10-59・60]。
・事象改変の前後で事後的にエネルギー総量の乖離が小さいほど、魔法師の負担(魔法演算領域に掛かる負荷)は小さいと言われており、エネルギー総量の増大も減少も負担となる[Ⓝキ-2-179・180]。
・司波深雪は、エネルギー収支の不均衡を緩和するプロセスを追加した起動式を使い始めてからは、ニブルヘイムの発動に失敗しなくなっている[Ⓝ㊕続追-69]。
総収支がゼロに近ければ相殺法則の役割は小さいだろうし、ゼロならば相殺法則は働かないだろうから、相殺法則の働き具合は、要求干渉力の大きさや魔法の成功率などと関係しているものと思われる[管推]。
魔法とエネルギーに関する達也の仮説
『余剰次元理論に基づくマイクロブラックホール生成・蒸発実験』にからめて、司波達也は魔法とエネルギーに関する自身の仮説を披露している[Ⓝ劣-10-58∼60]。達也の仮説は、以下のようにまとめられる。
魔法式には、事象改変で不足するエネルギーを逆算し、重力が支えている次元の壁を崩すことなく、この異次元から不足分をちょうど取り出すプロセスが含まれている。
異次元のエネルギーは非物理的な(魔法的な)エネルギーであり、魔法式によって事後的に物理的エネルギーに変換されている。
事象改変の結果として、この世界内部のエネルギー保存則が破れたように見えるが、それは見かけ上の話に過ぎない。
考察・気づき・疑問点
・エネルギー保存則を破らないように組まれた魔法は、少ない干渉力で実行できる[Ⓝ劣-3-316]。
ならば、現状維持式を組み込む魔法は相殺法則に逆らうものであり、より多くの干渉力が求められるのではないだろうか[管推]。
それを考慮すれば、ドライ・ブリザードのような、効率の良い魔法こそが優秀と言えるだろう[Ⓝ劣-3-315,管推]。
・「異次元からのエネルギー補填」を相殺法則の正体の一端だと仮定すると、巳焼島の噴火について考察が深められるかもしれない[管推]。
・達也が考えている『現象の局所的調節仮説』は、「世界」の修復力とも何か関係があるかもしれない[Ⓝ劣-15-205・206から管推]。
・ドライ・ブリザードでは、熱力学的な辻褄が合わせられている(熱収支がゼロに近づくよう工夫されている)ために「効率の良い魔法」とされているが[Ⓝ劣-3-315・316]、相殺に伴って起こるエントロピー変化の収支はどうなっているのだろうか。